極上の他人
「私……あの、今日は夕食いらないって、メールを……」
「ああ、あんなメール、無駄だ。史郁がどこにいようが、俺が迎えに行くし家まで送るから。だからこれからは、たとえ夕食を他で食べるにしても何時にどこに迎えに来いって連絡しろ」
「そんなこと、できません……私、これ以上輝さんに甘えるなんてできないし。誠吾兄ちゃんだって、そこまで輝さんにお願いしてないと思うし」
小さな声で呟く私に一瞬顔をしかめた輝さんは、何かを言おうと口を開きかけたけれど、横には亜実さんがニヤニヤしながら立っている。
そのことに気づき、大きく息を吐いて天井を仰いだ。
「何?遠慮せずに何でも言ってもいいのよー。照れるなんて輝くんらしくないし」
「遠慮はしないけど、亜実さんに聞かれると、すぐに姉貴に言われそうだから、やめておく。それに、史郁が照れて倒れるかもしれないし」
「え?照れて倒れるくらい甘い甘—いことを言おうとしてたの?」
亜実さんはわざとらしい大きな声を上げ、輝さんを指差した。
「もう、そんな整った顔で甘い言葉を言わないでね。関係ない私も卒倒しちゃいそう。
……睨まないでよ。はいはい、とっととふみちゃんを連れて帰ってちょうだい」
呆れたような亜実さんの声に、私は更に照れて俯いた。
輝さんは、私の手をぎゅっと握りしめ、安心したようにふっと息を吐いた。
お店の制服を着たまま、車を飛ばして迎えに来てくれた。
この部屋に入って私を見つけた時、安堵して表情が緩むのを隠そうともしなかった。
私の心の深い場所を温めてくれるようでくすぐったい。