極上の他人


重苦しい様子に変わりはないけれど、口元がぴくり、上がった気がした。

そんな微かな変化を感じとることができて、嬉しい。

私の口元も、思わず緩んだに違いない。

「もしも輝さんが塾の女の子のことを好きになったなら……きっと待つと思う。
彼女が高校を卒業して塾もやめて……笑顔で寄り添える時がくるまで待つと思う」

輝さんと出会ってから、それほど長い時間を一緒に過ごしたわけではないし、輝さんの全てを知ったわけじゃない。

お互いの気持ちを赤裸々に話したことだってないけれど、それでもわかるのは輝さんの中にある芯のようなものだ。

大切だと感じるものに対しては、自分の欲や感情を抑えて守ってくれる。

飄々とした見せかけでごまかすように、守っていることすら感じさせない優しさ。

短い間だとはいえ、私が輝さんと一緒にいた密な時間を振り返れば、すとんと理解できる。

「輝さんは、問題になった女の子に手を出したわけじゃない……と思う」

言葉にしながら、私は本気でそう思っていると自分に気付き、それを確認するように頷いた。

大切なものを守ってくれる輝さんを近くで見てきた自分の直感は、信じられる。



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