極上の他人


そう。

輝さんを、好きになってしまった。

ずっとその感情を隠していたのに、それに気付いた途端、手に入らないと知り胸は痛い。

その痛みを振り切るように視線を上げて、再び輝さんを見ても、相変わらず『オレンジ』の女性と楽しげに話しているし、私に気付くこともない。

「今日は帰ろう……」

目の前の現実は、恋心を実感したばかりの私には優しいものではない。

今閉じたばかりの扉を再び開いて外に出ようと身体の向きを変えた。

その瞬間。

「ふみちゃんっ」

背後から私を呼ぶ声にはっと振り向くと、千早くんがカウンターの向こう側から手を振っていた。

「どうしたの?カウンター、空けてるからおいでよ」

手招きして私を呼んでいる。

いつもと変わらない優しい笑顔を向けられて、どこかとげとげしくなっている気持ちがほんの少しだけ落ち着いた。

魔法のような千早くんの笑顔は魅力的だけど、それでもやっぱり今日は帰ろうと、首を横に振りながら、「ごめんね、また来る」と少し大きめの声で答えた。

そして、千早くんの答えを待たずに背を向けて、お店のドアを開けた。

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