極上の他人
いつの間に来たんだろうかと、首を傾げつつ、手元に視線を落とした。
輝さんは、ドアノブごと包んだままの私の手を、離す気配もなく呟いた。
「夕食、食べないのか?」
その低い声は、さっきまで『オレンジ』の人と話していた声とはうってかわって不機嫌さ丸出しで、私の胸にぞくっと響いた。
「え、あ、あの、混んでるし……お邪魔しちゃダメかと」
「混んでるけど、それはいつものことだし、ふみちゃんのためにカウンターの席は空けてある」
輝さんは私の目から視線をそらすことなく呟いた。
私がお店の外に出ないようにと気遣ってか、もう片方の手で私の腰を引き寄せて、離さない。
「えっと……」
ちらりとカウンターへ視線を向けると、千早くんは輝さんのこんな様子に目を見開き驚いていた。
しばらく私と輝さんを交互に見ていたけれど、何かに思い至ったのか肩を竦めると。
「今日はふみちゃんの好きな煮魚があるよ。食べにおいで」
優しい声をかけてくれた。
「あ、うん……でも」
俯く私に、輝さんは小さくため息を吐くと、握っていた私の手に更に強い力を込めた。
そして、引きずるようにカウンターへと私を連れて行き、乱暴に私を椅子に座らせた。
いつも私が座っている、カウンターの一番端の席だ。
初めて会ったお見合いの日もこうして引きずられながらこの席に座らされたな。
よくよく、私をひきずることが好きな人だ。