極上の他人
「な、何も、ない、です」
グラスを両手で握りしめながら、それだけを言うのがやっとだ。
私の顔に、輝さんへの気持ちが露わに出ていないかとひやひやしながら視線を泳がせた。
客商売の輝さんだから、きっと人の表情を読むのは得意なはずだし、私の気持ちも簡単に見透かされそうで怖い。
心臓に悪すぎる。
恋心を抱いた相手は私を何とも思っていない。
片思いの典型だな……。
「顔が赤いけど、体調が悪いのか?明日も仕事だろ、今日は食べたらとっとと帰って早く寝ろよ。一人暮らしならなおさら体調管理はちゃんとしないとだめだろ」
私の背後から、カウンターに片手をついてぐっと私を覗き込む仕草はまさに大人の魅力そのもので、色気のある瞳は私の不安げな顔をそのまま映している。
「熱は、ないな」
慣れた仕草で私の額に自分の額をこつんと当てた輝さんの呟きに、私は必要以上に身体を硬直させた。
私の後頭部を固定して額を合わせ、そのまま私の瞳を見入る輝さんのせいで、平熱なのに一気に熱が上がりそうなほど体が熱くなった。
というより、既に体全体が熱くてたまらない。
「あ、あの、熱はないんで、大丈夫……です」
力なくそう呟いて、輝さんの胸を手で押し返した。