極上の他人


俺と史郁の関係に大きな変化は見られない。

そろそろ結婚式の日取りを決めて準備を始めたいと思っている俺の気持ちに気付いているのかいないのか。

『ごめん、今度の週末は新しい展示場の下見で出張なの』

『研修で一週間営業部に行くことになって会えない』

『工場見学会のお手伝いで忙しいの』

まるで恋人なんて存在しない、仕事一筋の女にでもなったような言葉ばかりを聞かされる。

俺は恋人以上の、それも婚約者だと自覚しているが、それは勘違いか?

これまでなら週に一度や二度は店に夕食を食べに来ていたが、今週は一度も顔を見せず会社の社食で残業食を食べているらしい。

『残業食だって侮るなかれ、かつおのだしがきいた、おいしい天ぷらうどんなんだよ』

かなり満足しているとわかる声で、その日のメニューを話す史郁にいらいらする。



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