極上の他人



輝さんは、くすりと小さく笑うと、ゆっくりと体を起こした。

そして、私の体に手を差し入れて自分の膝に抱き上げた。

輝さんの膝にまたがるように体を下ろされ、体制を整える間もなく、おでこを指で突かれた。

「いたっ」

輝さんは、何食わぬ顔で私を見ている。

でも、上がっている口角には、嬉しげな何かが浮かんでいて、ほっとした。

「史郁が最近仕事で悩んでいるのも、賞を獲ったことによる周囲からのプレッシャーに苦しんでいるのもわかっているけど。もう、ずっと悩んでいればいいんじゃないのか?」

「は?ずっと悩む?」

「ああ。今悩んでいることが解決したとしても、次の仕事で苦しんだり壁にぶつかったりするだろうし。仕事じゃなくても、史郁が夜通し泣き続けるようなつらいことだって起こるかもしれない」

「それって、すごくマイナス思考っていうか……将来に夢も何もない。私に成長はないって言いたいの?」

拗ねるように呟いた私に、輝さんは肩をすくめる。

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