極上の他人


病院に行った帰りに買った『赤飯』でも食べようかな。

テーブルの上に無造作に置かれたままのスーパーの袋を手に取って、その中から『赤飯』の折詰を取り出した。

体調の悪い時に赤飯がいいのかどうかはわからないけれど、熱を出した時にはいつも赤飯が食べたくなる。

ばあちゃんがよく作ってくれた赤飯を思い出して、ほっとするからかな。

「あんな夢を見たから……」

熱のせいで気弱になっていたせいか、普段はあまり見ることのない過去の幸せな時を夢に見た。

現実に戻るといつも苦しい。

ふっと小さく息を吐く。

そして気持ちを入れ替えて、ゆっくりと赤飯食べよう、と思った時、近くに置いていたスマホが鳴った。

『亜実さん』

その表示を見て、私は慌てて電話に出た。

「もしもし、今日は会社を休んですみません」

『あ、いいのいいの。会社なんていつでもやってるんだからいいのよ。それより体調はどうなの?熱が高いって聞いたけど』

「はい、朝はかなり高かったんですけど、今は微熱程度なので、月曜日には出社できると思います」

『そう。もし何か必要なものがあれば今から持って行くけど、大丈夫?』

「大丈夫です、すみません。とりあえず食料はいろいろと確保しました。明後日には普通に買い物も行けそうだし、心配をかけてすみません」

『心配はどれだけでもしてあげるけど、特に困ったことがなければそれでいいのよ。でも、一人暮らしなんだから、体調が悪くなったり困ったことがあったら電話しなさい。
いつでも駆けつけるわよ』

その明るい声に、私の気持ちは軽くなる。

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