極上の他人
輝さんは、その間もずっと私の手を握ったまま離そうとしない。
私もじっとしたままで、輝さんの手の温かさに心地よさを覚える。
そして、どこか息苦しさも覚える。
それでも輝さんがこのままずっと私に体温を与えてくれればいいな、と思う。
「指輪、してないんだな」
ぽつり。
輝さんが呟いた。
「指輪は、仕事をする時に外して失くす事が多くて。今はつけてません」
重なった二人の手を見つめながら、小さな声で答えた。
たまたま入ったお店で見つけたかわいいファッションリングを以前は身に着けていたけれど、慣れていないせいか気になって仕事に集中できなかったからすぐに外してしまった。
それ以来、指輪は身に着けていない。
「ふーん。失くすと困る指輪、持ってるんだ」
輝さんの口からは聞いた事がないような低い声、そしてあからさまなため息。
そっと視線を上げると、にこりともせず、機嫌が悪そうな顔が目の前にあった。
「あの……?」
二人の視線が合った途端、輝さんはばつが悪そうに苦笑した。