三十路で初恋、仕切り直します。

会うのは高校を卒業して以来……いや、たしか二十歳の成人式のときに一度会ってるから、それから丁度干支一周分経っていることになる。

それでも相手が久し振りに会う幼馴染だとすぐに気付いたのは、今年で泰菜と同じく32歳になるはずの法資が学生のときと変わらず端正な目鼻立ちで、すらりとしたスタイルを維持していたからだった。


職場ではすでに白髪が出始めたり中年太り予備軍と化してしまった同年代の男たちを見ているだけに、陰るどころかむしろますます男っぷりが増した法資がいかに稀有な存在なのかが分かる。


男は30から生き方が顔に表れてくるというが、法資はよほど毎日が充実しているのだろう、如何にも負けん気強そうなつんと澄ました鼻に意思の強そうなきりっとした眉、信念と精力を漲らせたまっすぐな目をしていた。立ち姿には己に自信を持つ男特有の堂々とした雰囲気があり、見てるだけで気圧されしそうになった。


男ばかりの職場で働く泰菜はただ顔が整っているだけの男や、若くてお洒落な男なら他にも見てきたけれど、こんな大人の男としての余裕を感じさせる、精悍な男らしい男は滅多に拝んだことがなかった。


幼馴染が昔以上にすっかりいい男になってしまっていたことを楽しむ余裕もなく、「いい女」になったとは口が裂けても言えない自分と比べて思わず負け犬気分でどんよりしていると、なぜかむくれたように法資が吐き捨てた。



「兄貴じゃなくて悪かったな」
「そういえば法資と会うの、かなり久し振りよね。今お店は法資が手伝ってるの?」

「……まあな」



泰菜は高校卒業後、地方にある四大に通うため桜井町から転居し、卒業後も地元へは戻らずそのまま就職してしまったが、法資は都内にある学歴としては申し分のない名門大学を卒業したと聞いている。


学生の頃から常に成績優秀だった法資のことだから、てっきり一流企業へ就職し、会社が選りすぐった高学歴で容姿端麗な若い受付嬢あたりと結婚して、今頃勝ち組街道まっしぐらの誰もが羨む順風満帆な人生を送っているのだろうと勝手に想像していたので、地元に残って『桃庵』を手伝っていることはかなり意外だった。


勿論親の店を手伝うことだって十分立派な仕事だとは思うが、完璧主義でプライドも高く常々「親父や兄貴みたいにはならない」と傲慢なことを言っていたから、学生時代は挫折とは無縁だったあの法資でも人生思い通りにならないことがあるんだなぁと、すこしだけ親しみを感じてしまう。


「あれ?でもたしかおじさんのお店、英達にいちゃんが継ぐんじゃなかったっけ?」
「ウチもいろいろあってな」
「じゃあ英達にいちゃんはいないの?会いたかったのにな、残念」


本気で会いたかったというよりは社交辞令に近い言葉だったけれど、法資は如何にも小馬鹿にするような冷ややかな調子で言ってきた。


「言っとくけどな。兄貴はもう三年も前に結婚してるぞ」
「え。そうなの!?」





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