ラッキーセブン部
第十七話 楽あれば苦あり
今日は俺にとって…散々な一日になってしまった。あの部に出会っていなければ俺はずっと不良達と学校をサボったりして過ごしていたかもしれないというのに…。
しかし…こんなことは予想外だ。こいつは俺に…喧嘩を売ってるのか?

「どうして、あんたは目つき悪いの?」
「生まれつきだから、仕方ないだろ。どうして、先輩は口が悪いんだよ」
「…お互い様でしょ。私の方が先輩なんだから敬語使いなさいよ」
「はぁ…そうですか」

俺はこの先輩と口論をする気はないんだけど…。というか、早く帰りたい。

「…はぁ」
「…」

俺がため息をつきながら目を逸らすと先輩は黙りこくった。今度はなんなんだ。俺は不安に思ったが黙っていた。すると、先輩はさっきとは違って静かな声で話し始めた。

「…さっき…不良になったのは、仕方ないって言ってたけど…どうして?」
「何でそんな事聞くんだ」
「私の友達が…不良になっちゃったからかな」
「へ〜…」

先輩は何かを訴えるような目で俺を見つめた。説明しろって事か…。

「…周りの人間に敵視されたからじゃないですか。誰にも求められず誰からも見向きもされず息苦しくなって行き着いたのがここって感じで…」

そう…あの頃の俺は…誰からも。

……

『あの子よ…集団でいじめるように指示したの…』
『え…怖い…。私の息子も狙われたりしたら大変だわ…』

クラスメートのお母さん達が俺を指差して、そうヒソヒソと話している。

…違う。俺はそんな事っ!

『あいつなら何人も死に追い込めるんだろうな』
『目つき悪いもんな』

他のクラスの奴らが俺を嘲笑う。

…目つきなんて関係ないだろ!

『あんたっ!なんて事をしてくれるのよ!』
『お前なんかうちの子どもじゃない!』

俺の両親が嫌悪の眼で俺を見る。

…俺は何もしてないっ!俺を…俺を見捨てないでくれ!

……

「…隼一?大丈夫?」

気付くと俺の隣には佳介がいて、俺の顔を心配そうに覗き込んでいた。

「な、何でお前がいるんだ!」
「えっ!隼一が一緒に帰ろうって言って連れ出したんだけど…」
「そう…だっけ?」

周りを見回すと確かにいつもの通学路を歩いていた。
太った猫があくびをしながら塀の上から俺達を見下ろしていた。
あの後、俺はあの先輩と何の話をしたんだろうか。全く記憶がない。

「…隼一は今日、笹井先輩とどこを周ったの?」

佳介は突拍子もなく、笹井先輩の名前を出してきた。

「…どこも周ってない」

俺は少し考えてからそう答えた。佳介も笹井先輩の事が気になっているように見える。もし、ここで俺が先輩に告白をしたと言ったらこいつは俺を避けるんじゃないだろうか。でも、それがどうしたんだ。避けられるのなんてもう慣れたんだ。別に言ったって良いよな。フられたわけだし…。

「俺…笹井先輩に告ったんだ」
「告っ…!さすが、隼一だね」

佳介は驚きはしたものの、がっかりはとした様子は見せず、むしろ尊敬の眼差しを俺に向けた。

「お前…気にならないのか」
「…もう良いんだ。俺は笹井先輩にフられたようなものだから」
「ま、待て。俺はフられたんだぞ。まだ余裕ぐらいあるだろう」
「…俺には彼女がいるから。というか、隼一がそんな事を言うなんて珍しいね」
「そ、そうか?」

彼女…ね。そういえば、佳介には彼女がいたんだっけ。彼女がいながらにして笹井先輩が好きって…どんな神経してやがるんだ。いや…笹井先輩の事を先に好きになっていたとしたら分かる気はするか。

「…もしかして、佳介も笹井先輩に何か言ったのか?」
「俺は婉曲的に言ったよ」
「婉曲…遠回しにか…」
「そしたら…笹井先輩は…『…今の彼女をちゃんと見つめてあげて…』って言った」

なるほど、気になる人が笹井先輩だと言う事をふせて話したのか。そして、笹井先輩は佳介に彼女を優先するように言われた…と。

「それで、佳介は諦めるのか」
「今の彼女をちゃんと見つめてから諦める事にする」
「じゃあ、まだ敵ってことだな。あ〜ぁ。また部員が増えて敵が増えないと良いがな…」
「そうなるかは部長の正弥先輩次第だよ」
「…正弥先輩ねぇ〜」

あの人はあの人で色々とめんどくさい。俺の偏見だけど。

「じゃあ、ここで。明日こそ、お互い楽しめるといいね」

佳介はそう言うと俺に背を向け駅の方に歩いていった。
お互い楽しめる…ね。多分、俺には無理かな。

トントン

俺が佳介の背中を見送ってると、誰かに肩を叩かれた。

「よっ!隼一」

振り返ると姉さんが携帯電話を片手に持ちながら俺の肩をがっしりと掴んでいた。

「なんだ…。姉さんか」
「姉さんか…じゃないでしょ。こんな所でなにやってのよ」
「何もやってないけど。姉さんこそなにしてんだよ。一日中、家にいるはずなのに」
「たまには外に出ないとね。今、この前話した子と話してたのよ」

前に話した…?俺が小首を傾げていると姉さんがため息を尽きながら、口を開いた。

「ほら、7を持っている人を探している女の子よ」
「あぁ…」
「ちょっと、あんたラッキーセブン部っていうのに入ってんでしょ?その部活の先輩ここに呼んできてよ」
「何で俺が…」
「カード10枚でどう?」
「15枚だな」
「連れてくるだけなのにそんなにあげないよ」
「嫌ならこの話は無しで良い」
「OK。13枚でどう?」
「分かった」

ラッキーだ。初めてあの部活に入って良かったと思ったぞ。俺はそう心の中でガッツポーズをしているとまだ話は終わっていないとばかりに姉さんは携帯電話をポケットにしまい、俺の両肩をがっしりと両手で掴んだ。

「な、なんだよ」
「出来れば、部長さんを連れてきて」
「わ、分かったよ。…でもな…。あの人とは…先輩の事で問題あるからな…」
「問題?あんた、また変な問題起こしたんじゃないでしょうね?」

ね、姉さんの顔が近いっ!妙な事を言わなければ良かったな。俺は姉さんの手を払い、二三歩後ろに下がり姉さんからひとまず離れた。

「そ、そういう系の問題じゃねぇから姉さんは気にしなくて良い」
「…そう、まぁ良いや。じゃあ、先輩呼んできて、ね?」
「分かったよ…呼んでくれば良いんだな…」

正弥先輩をひとまず呼ぶのはやめておこう。呼ぶとしたら、栄先輩ただ一人だな。この時間なら栄先輩はもう家に戻っているだろうし。
俺は駅の近くにある時計の時間を確認してからその場を立ち去った。

〜栄先輩邸〜

俺の家の近くにこんな豪邸があったなんて何で今まで気付かなかったんだろ。いや…気付かなかったんじゃなくて、家だと思ってなかったからだろうな。世界遺産の建築物かと…。
門の奥の建物を見つめながら、俺はインターホンを押した。

ピンポーン

『はい。どなたですか?』

少し、しわがれた男の人の声が聞こえてきた。…執事だよな?

「え、えっと…。栄先輩の後輩の近藤隼一です」
『あぁ。お坊ちゃんと同じ部活の方ですか。少々、お待ちください』

お、お坊ちゃんって…。ほ、本格的な金持ちだ…。手に汗握ったぜ。

『おっまたせ〜。隼一、どうしたの?』

数分もしないうちに、栄先輩の少し間の抜けた声が聞こえた。

「あ〜…口では説明しにくいからちょっと俺と一緒に来てくれないか?」
『え…た、たいまんはるの?』
「いや…違…」
『あ、そうだ。折角だし、俺ん家に入ったら?正弥も呼ぼうかな〜。あ、今、扉開けるからね〜』

…人の話を聞けよ…。ていうか、なぜ、正弥先輩を呼ぶんだ。
ガチャリと音が鳴り自動でゆっくりと大きい門が開いた。
ここの中に入って歩けって事か…。建物まで結構、距離あるんだけど。
俺はためらいながらも一歩を踏み出し、遠い道のりを歩き始めた。
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