ラッキーセブン部
第二七話 賭けと五点と生徒会
「賢治。この学校、結構大きいな」
「そうだな。…賢一」

目の前にそびえ立つ建物を見て俺達は感嘆の声をあげた。
学校の大きさ、それと敷地の広さが尋常ではない。例えるなら…東京ドーム半分(?)。…それくらい、結構広いってことだ。転校先を決めたのは兄、賢一だ。俺達は元いた学校で色々あって転校することになった。まぁ、主に賢一に色々あったんだけど…。
どこかの本で読んだことがある。この世は陰と陽の二つで出来ていると、そしてその二つはいつも一緒に存在する…。それが現れやすいというのが俺達のような双子。一人は陰で一人は陽。災難はいつも陰の方に降りかかる。
昔、賢一に起こった数々の災難。あれはきっと偶然なんかではないと思う。動物園でサルに引っ掻かれたりだとか床屋で坊主にされたりだとか。賢一の彼女が間違えて俺にキスしたり。俺はそんな賢一を慰めるためにわざとサルに引っ掻かれたり、床屋でカツラを無料でくれと懇願したり。(結局、カツラはもらえなかった)本当…色々あったなー。

「賢治、今までありがとな。俺は大丈夫だから。この学校、選んで正解だったかもしれない。なんか楽しそうだぜ。見ろよ、これ」

笑顔でパンフレットを見せる賢一。大丈夫って…何がだよ。

「パンフ逆さだよ。賢一」
「ん?…あ」

慌ててひっくり返す賢一を見ながら俺は苦笑いを浮かべた。

「おーい!そこの二人」

校門をふと見ると俺達に手を振る先生らしき人がいた。なぜか、とても満面の笑顔だ。

「こんにちは!」

兄は嬉しそうに会釈をした。俺も同じように会釈をする。あの人は確か…生徒会の管理者だ。
その先生は俺達の方に駆け寄ってきた。

「今日からここに転校してくる戸越賢一君と戸越賢治君だよな?」俺は吉田だ。よろしく」
「「よろしくお願いします」」
「ところで読者モデルやってたよね?」
「「は、はい」」
「最近、出なくなったけど何かあったのか?」
「どんどん新人が出てきたので…」
「やめました」
「そうか…うちの娘がとても君達のファンでな…サインをくれないか?」

…この先生、娘いるんだ〜。40そこそこって感じだし、当たり前か。それにしても、あんまりファンがいなさそうな学校だと思ったけど先生の娘がっていうのは予想外だったな。

「いいですよ〜。サインします」
「そうか、ありがとう!じゃあ、明日。色紙を持ってくるから」

先生は嬉しそうに俺達の片手を掴んでブンブンと振った。
この先生…フレンドリー。

「俺は君達の担任だ。何か質問あったら聞いていいぞ」
「「はい」」

先生は『来い』という風に手招きすると俺達の先を歩き始めた。

……

俺達は転入してすぐにクラスの人気者となった。昼休みに行う昼食を賭けた闘いの首謀者だからという理由だけどな。でも、俺達はその賭けでは、ある理由で満足できず、隣のクラスのある男に賭けを申し込んだ。

「どうしてあんなに不機嫌だったんだろう…」

賭けを申し込んだ後に自分のクラスに戻ると賢一がボソリと呟いた。賢一はよく独り言を言うからいつも、あまり気にはしないけれど今日は反応してしまった。

「一匹狼なんじゃないか?他の人はグループ作って昼飯食べてるのに一人だけ端で読書してるんだから」
「そ、そうだよな。俺のせいで不機嫌ってわけじゃないよな」

いや…、俺達のせいでもあると思うけどな。その言葉を呑み込み、俺は賢一の肩に手をまわした。

「同じ顔で落ち込むなって。…それにこの賭けの結果次第でどっちが陰か分かるんだし」

最初の方で言ったとおり、恐らく陰は賢一。それが確かなものなのかを調べるためにわざと頭のいい奴に、賭けを挑んだんだ。そして、そいつが勝って俺達のどちらかをこき使えば、使われた方が陰というわけだ。
そして、期末テスト返却日になった。

「賢治!100点取っちゃったよ」
「俺も100点取った」

これであいつも100点だったら引き分けか…もし、100点以下だと俺達の勝ち。どちらにしても嬉しい気持ちにはならなかった。もう一つの賭けは、失敗したんだ…。…もう、陰とか陽とか気にしない方がいいかもな。賢一は気にするかも知れないけど。

「戸越君達、職員室に来てくれるかな」

化学の授業が終わると俺と賢一はそう呼びかけられた。
俺達は顔を見合わせて首を傾げた。

「叱られるのかな」
「まさか。俺達悪いことしてないだろ」

俺達は先生について職員室に行くとドア付近で吉田先生が真剣な顔で俺達のことを出迎えた。

「戸越」
「「はい」」
「生徒会に入らないか?」
「「え?」」

いきなりの先生の発言に俺と賢一は目を瞬かせた。

「お前ら、顔は良いし。クラスでも人気者だし。おまけにスポーツも勉強もできるだろ」
「それと生徒会が何の関係があるんですか?それに生徒会役員は一学期の時点で決まってるはずではないんですか?」

賢一が正直な疑問をぶつけると吉田先生はなぜか苦笑いを浮かべた。

「いや…まぁ、その通りだが。臨時で募集かける時もあるんだ。今の生徒会が地味でな…インパクトが欲しいんだ。だから、無理にとは言わないけど気が向いたら入ってくれ」

吉田先生はやや言葉を濁しながらそう言った。
…生徒会にインパクトって必要なのか?そもそも、俺達が加わっただけでインパクトにならない、と思う。

「…賢治。今の先生の言葉、信じられるか?」
「…全く」
「…だよな。きちんとした理由を調べないと信じられないよな」
「…生徒会や先生について少し調査してみよう」
「お前ら、何をコソコソと…」
「「その話、考えときますっ!」」

俺達はそう先生に言うとその場をすぐに去った。

「賢治。調査するってどうやるんだよ」

職員室からだいぶ離れると賢一が険しい顔で俺に問いた。

「分からない。とにかく、先生を尾行して情報を得るしかない」

それしか、方法はないはずだ。

「…おい。廊下のど真ん中に立つなよ」

いつの間にか目の前に二、三個のダンボールがあった。いや、ダンボール箱を持っている人がいた。

「荻野、正弥!」
「そんな驚くなよ。あ…テストどうだったんだ。俺は95点だったんだけど」
「俺と賢治。両方満点だった」
「…そうか。じゃあ、俺の負けだな。これが俺の大切な物だ。受け取れ」

ダンボール箱を床に置いて胸ポケットからしおりを一枚取り出すと、俺達に見せた。

「「四つ葉のクローバー?」」
「なんだ。文句あるのか」
「いや…ないけど。…なぁ、賢治」
「…それはもらえないかな。やべっ!先生来た!ごめん。そういうわけだから今回の賭けはなしな」
「は?ちょっ!お前ら!!」

俺達は全速力で走りその場を離れた。どういうことだ。あいつ、いつも全科目満点っていう噂だったはずだろ?なのに、どうして、一問間違えたんだ?今回の化学は正直言ってそこまで難しくはなかったし。…ケアレスミスとかか?それと、どうして、あいつの大切な物がクローバーなんだ。四つ葉だからか?小学生か。荻野正弥、謎だらけ過ぎる。

「賢治。そういえば、部活どうする?」
「え?部活?」

賢一の唐突な質問に俺の思考は一時停止された。それと同時に頭の中で部活という言葉が意味を持たずにぐるぐると回った。
…部活…部活。

「軽音部とかいいと思うんだけど」
「賢一の決めるとこに入るよ」
「じゃあ、軽音部な。入部届けを後で提出しに行こう」

俺と賢一はギターを弾くのが趣味だ。趣味止まりで技術はそこまでないけど、楽しいから6年続けてる。

そういうわけで、放課後。俺達は担任、吉田先生に入部届けを出そうとしたのだが教室にも職員室にもいなかった。

「どこにいるんだ?あの先生は」
「…生徒会室じゃないか?」
「そうだな」

生徒会室前に行くと中で何やら話し声が聞こえた。盗み聞きをするつもりはなかったが入ってはいけない雰囲気だったから俺達はそのままドアの前で留まった。

『吉田先生。荻野君が五点落としたのはどういうことだろうか』
『私は彼の担任ではないので…分かりません。ケアレスミスだったのではないでしょうか』

話しているのは…校長と吉田先生か。

『そうか。…君の所の戸越君達…賭けをやってるそうだね』

俺達の名前が上がると全身の筋肉が硬直していった。
転入して早々、また転校しなければいけないのだろうか。

『…賭けですか?』
『昼食を賭けたりだとかしているようだが知らないのかね』
『はい…でも、荻野はそんな賭けに乗るような生徒ではないので戸越達は関係ないような気がします』
『確かにそうだな。でも、一応、監視はしっかり頼むよ。他の生徒も点を落とすようになったらこちらも対応しないといけないからね』
『…そう…ですね』
『じゃあ、これからもよろしく頼むよ』

…監視。やっぱり、あの賭けは良くなかったのか。でも、荻野正弥の自らのミスかもしれないじゃないか。どうして、先生達はそんなに不審に思うんだ。…まさか、あいつ。わざと負けた?あいつにとって勝っても負けても嬉しくない賭けだったのか…。荻野正弥が不機嫌な理由がようやく分かった気がした。

ガチャ

「…っ!君達、こんな所で何をしてるのかね。…まさか、今の話…」

生徒会室から出てきた校長は俺達を見ると、目を丸くした。
しまった。逃げそびれた。賢一も校長と同じように目を丸くして硬直していた。

「あぁ!よく来たな!この部屋、掃除してくれ」
「「よ、吉田先生?」」
「何をモタモタしてるんだ。君達の仕事だろ。ほら、ほうき」

吉田先生はそう言いながら俺達にほうきを渡して生徒会室に入らせると校長と一緒に出て行った。

『吉田先生。彼らは…』

2人の足音が遠のいて行くのが分かると俺の固まっていた筋肉がゆっくりとほどけた。

「校長。俺達の賭けの事、気付いてたんだ」
「吉田先生。俺達の事、かばおうとしてたよな」

俺達は顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。

「これからどーする?賢治」
「賭けをやめればいいだけだろ。俺達はそんなに悪い事してない!…荻野には悪いけど」

ガチャ

さっき出て行ったはずの吉田先生が隣の部屋に通じるドアから顔を覗かせて俺達を凝視した。

「罪はちゃんと償わないとダメだろ」
「「…っ」」

俺達の今の会話、聞かれてたのか。

「生徒会の補佐及び雑用係やれば、校長先生はお前らの事、信用するんじゃないか」
「…先生。俺達の事こき使おうとしてるのか?」
「…違うよ。賢治。俺達の事を救おうとしてるんだよ」
「コソコソするなっての。お前らに拒否権はない」
「わ…分かりました。やりますよ。俺達は万能双子ですから不可能なことはありません」
「賢一…」

賢一が、自分から進んで(?)引き受けた。結構、驚きだ。

「そうか。じゃあ掃除引き続き頼んだ」

吉田先生はそう言い残すと、入ってきた時と同じドアから出て行った。

「「はぁ…」」

俺達は再び、顔を見合わせてため息を深くついた。
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