愛し*愛しの旦那サマ。

数秒間、触れ合った後に、ゆっくりとまた離れる口唇。


それから、自分の口から出て行く言葉は、


「帰って欲しくない」

「え……」

「このまま、抱きたいんだけど」


今だかつて、誰にも言ったことが無い言葉で―…


出来ることならば、今夜はこのまま彼女を帰したくない。


そんな想いばかりが膨らみ、勿論、抑えようともしたが、気付けば彼女に触れてしまっていた―…


「抱いてもいい?」

「……」

「嫌なら、やめるけど」


彼女から断ってくれないと、もう、自分からは抑えきれそうもない。


また、直ぐにでも彼女の口唇に触れられる距離で、じっと彼女の瞳を見て、彼女の答えを待つ。


数秒間の沈黙。

そして、彼女は、


「お願い……します」


その言葉と同時に、こくりと小さく頷く。


そんな姿を見て、俺はまた、そっと彼女の口唇に触れた。



< 453 / 498 >

この作品をシェア

pagetop