御劔 光の風3
「あいつは俺を狙っている。俺のいる所に必ずまた現れる筈だ。これ以上犠牲を出したくない。」

「何を今更。」

「今までとは訳が違う。」

カルサの言葉で一度会話が止まった。絶え間なく交わされる言葉が途切れ、一瞬、一秒ごとに冷静さを取り戻していく。

「あいつ一人で国を一つ潰す事ぐらい簡単な事だ。守るものを抱えて倒せる自信など…俺にはない。」

カルサの表情が歪んだ。弱音に近いその言葉と表情に彼の思いが伝わってくるような気がしてサルスからため息がもれる。

「一人で行っても同じじゃないのか?」

「仲間がいる。」

「その仲間に貴未が入っていると。」

「そうだ。」

瞬間的に目が合った。凍り付いたような冷たさの目で思わず貴未は構えてしまう。今までこんな表情を見せたことがあったか、自分自身に問いかけてしまうほどにサルスらしくなかった。

というより、こんなサルスを見たことがないし想像も出来なかったのだ。

軽蔑されたという感覚が広がって嫌な汗がにじみ出てくる。

さっきまでとまるで違う雰囲気に、目の前にいるのが本当にサルスパペルトなのかと疑いたくなるほどだ。

「戦力が減った城の守りから更に戦力を奪っていく訳だな。本当に潰す気らしい。」

呆れ果てた投げやりな声は場の雰囲気を変え、ある意味それは重たい空気を軽くした。わざとか偶然かは分からないが刺すような空気でなくなったのは確かだ。

「どう思われても仕方ない。」

ついにカルサも押しの発言が消えてしまった。

「そう、お前の選ぶ道はただの自己満足にすぎない。何を思い、考えたとしても受けとめる側からすれば綺麗事だ。」

吐き捨てるような言葉に怒りを促され言葉よりも先に身体が反応した。サルスに近寄ろうとする貴未の足を止めたのはカルサ右手だ。

ただ横に伸ばしただけ、それだけで十分貴未を引き止める力はあった。

< 486 / 729 >

この作品をシェア

pagetop