御劔 光の風3
「ぼろぼろの状態の国を捨て王は去った。今まで王様、雷神様と敬っていた人物は貴重な戦力をつれて簡単に姿を消してしまいました。民はいつまた来るやも知れない襲撃に怯える。もう守ってくれるカルサ・トルナスはいない。つまりは、絶望だな。」

サルスの言葉を二人は口を閉ざして耳を傾けている。少しずつ近寄ってくるサルスから目を離さない。いや、離せなかった。

まるで敵にでもなってしまったかのような雰囲気にナルの手紙を思い出して貴未が思わず身構える。

「お前の正義など、残された者にとってはそんなものだ。」

それでもカルサは口を開かなかった。

再び訪れた沈黙と共に睨み合いが続く。少しの物音でも反響する武器庫では、布が擦れる音、口元で笑うことでさえ響きそうだった。鼻で笑うサルスの息も嫌味なほど響く。

「この国、もしお前が潰さなかったとしても。…俺が潰す事になるな。」

そう吐き捨てるとサルスはカルサと貴未の間を割り込むようにして擦り抜け武器庫から出ていった。

横切るその瞬間、サルスは笑っていなかったか?

そう思うなり怒りの気持ちが湧き上がり、反射的に追いかけようとしたが貴未の腕はカルサに掴まれてしまった。カルサは変わらない態勢のまま、何の言葉も発せず沈黙を守り続けている。

「カルサ。」

貴未の呼びかけにもカルサは何も答えなかった。

変わらない表情、胸の奥でいったい何を思っているのだろう。貴未に伝わるのは掴まれたままの腕に感じるカルサの体温と鼓動だけだった。

さっきの態度や口調など、今までからは予想できなかった彼の一面に触れて貴未は少し戸惑っている。ふとした瞬間に見せた鋭利な刃物のような目付き、普段の比較的穏やかなサルスからは考えにくい姿だった。そして去り際に見せた嘲笑うような顔も目に焼き付いて離れない。

あれは彼自身の一面なのか、それとも。

サルスが去っていった出入口を見つめたがそこにはもう人影もない。貴未の腕を掴んだままのカルサもまったく動く気配を見せなかった。

「行こうか、カルサ。」

労わりに近い声がカルサに触れる。その声を機に貴未を掴んでいた彼の手はゆっくりと力なく離れていった。

「そうだな。」

この言葉が出るまでどれ位の時間がかかっただろう。ようやく口に出来た声は寂しいくらいに低く静かな声だった。


< 487 / 729 >

この作品をシェア

pagetop