御劔 光の風3
「カルサは誰にも告げず、何よりも先に日向だけをここに避難させた。嫌いな奴にそんな事しないと思う。」

貴未から語られた真実、日向の中で急速に呼び起こされる記憶があった。

あの襲撃があった時、日向はやっとある程度使いこなせるようになった火の力で必死に戦っていた。

貴未に御劔であるから大丈夫と啖呵をきってみせたが実際には自信なんて全くない。

確かに今まで生きていく為に何度となく戦ってきたこともあるが、魔物なんて相手にした事がなんかある筈がなかった。

初めて見るこの異形な姿に足が竦んだのだ。

腰だって抜けそうになったが、聞こえてきた悲鳴で何とか自分を持ち直すことが出来た。

倒す為じゃなく誰かを守る為でも無くただ己の防衛本能に従って剣を握ったのが始まりの様な気がする。

まだ使い慣れていない火の力は反応が鈍く、確かな殺傷能力はあったもののそこに集中する時間なんて与えられなかった。

絶え間なく襲いくる魔物たち、油断すると引き込まれそうになる周囲から聞こえる悲鳴。

感覚は次第に極限まで追い込まれ、視界に入るもの全てに斬り掛かるようになっていた。

もう周りに味方がいないのは何となく分かっている、だからこそ研ぎ澄まされていくのか膨張していくのか自分では調整できない精神が暴走していくのが感じられた。

斬っても斬っても目の前から敵は消えない。

相手が自分の前に現れるのか自分から敵の渦に向かっていったのかは分からない。

ただ延々と繰り返される戦いは魔物が撤退するまで続いた。

少しずつ減っていく魔物たち。あれだけ戦った後だ、目の前から敵が消えても興奮状態がすぐ落ち着く訳がない。

静けさを取り戻したその場には日向の荒い呼吸だけが響いていた。

大きく開かれた目、肩でする呼吸、未だにまだ戦おうとする日向の右手には使い慣れていない刃の長い剣が握られていた。

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