御劔 光の風3
護身用に常備していた短剣では全く歯が立たなかったので落ちていたその剣を手に取り、ひたすらに戦っていたのだ。

剣が手に馴染んだなんてとんでもない、手に貼り付いて離れないのだ。

生きる為に戦った。

手がガタガタに震えているのが分かる。

前屈みになった全身が上下に揺れているのに手だけが小刻みに激しく震えているなんて、どれだけ異常な状態だろうか。

まだ戦える。

いや、違う。平常に戻る方法を完全に見失っているのだ。

「…っうわああ!!!」

僅かに背後に気配を感じた日向は考えるよりも先に本能で身体を動かして瞬発力で飛ぶように振り向いた。

もう疲れ果てて崩れ落ちそうな身体のどこにそんな力が残っていたのだろう。

一撃で確実に倒すべく、日向は振り向きながら全力で剣を振り下ろした。

響きあう金属音の重なる音。

たぶん時間としては少ししか経っていないのだと思う。

無心で全力をぶつけ続ける日向の耳にやがて剣の刃と刃が擦れあうカタカタという音が入ってきた。

「落ち着け、もう敵はいない。」

低くやさしい声が上から降りてきたのが日向にはまだ届かない。

その声は日向が反応するまで何度も何度も語り続け、しばらくしてようやく耳に届いた日向は我に返った。

「…っえ?」

目の前には薄汚れ、戦いの激しさを物語る血痕がいくつも付いた綺麗な衣裳。視線をずらすと目に入ったのはカルサの顔だった。

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