君の『好き』【完】
「えっ。家?」
「そ。お前、どっから来てんの?」
どこからって......駅を言えばいいのかな......
「○○駅だけど......」
私がそう答えると、吉井くんは救急箱を持って立ち上がった。
「ひとりで帰れんの?」
吉井くんに見下ろされて、ぱっと目をそらして下を向いた。
「子供じゃないし......ひとりで大丈夫だもん」
下を向いたままぶつぶつとそう答えると、
「もう、こけんなよ......じゃあな」
ぽんぽんと優しく頭を撫でられて、
顔を上げたら吉井くんはふっと笑って、
体育館の方へと歩き出した。
やっぱ、さみしい.......
さっきよりも、もっとさみしいのは、
優しくされたからだろうか.....
吉井くんが貼ってくれた膝の絆創膏を見つめた。
私......
「吉井くん!」
私は階段から立ち上がって、
渡り廊下を吉井くんに向かって走り出した。
吉井くんが振り向いて、
その前まで行こうとしたら、
また同じ場所で、つまづいてしまって、
その瞬間、吉井くんが私の腕を掴んで引っ張ったから、
ぎゅっと吉井くんの胸に抱きついてしまった。
目の前に、吉井くんの首から下げた黒いタオルが見えて、
「お前、危なっかしいな......」って、
吉井くんの胸から、
低くての優しい吉井くんの声が響いてきたから、
ガバっと大きく後ろに一歩下がって、
吉井くんから離れた。