ワーキングガールズ・クリスマス
「弥生さん、どうしてここに……」


枕元に座り込むあたしに向かって、よろよろと彼が手を伸ばすので、慌ててその手を握りしめて、あたしは小さな声で言う。


(さっきなんにも考えずに怒鳴ってたけど、よく考えたら頭に響くよね)



「ちいくんが電話してくれたんです、パパを助けてって」


「ちいが……?
ありがとうございます、弥生さん……」


話すのも辛いだろうに、気丈にも彼はあたしに笑いかける。


違うよ、あたしじゃないの。


「お礼なら元気になってからちいくんに言ってあげて下さい。
ちいくんが電話してくれなかったら、あたしはここに来られませんでした」


ニコリと笑い返すあたしを、眩しそうに彼が見る。


「あとはあたしに任せてもう眠って下さい、大丈夫ですから」


それからそっと、握っていないほうの手で千秋さんの頭を撫でる。


ちょっと子供っぽいかもしれないけれど、風邪の時はそれくらいが心地いいはず。


少なくともあたしはそうだから。


具合が悪いときには、大人も子供もなんだか無性に寂しくなるのだ。


重そうな瞼をした千秋さんはだんだんと眠りに落ちていく。


そして目を閉じる直前。


「弥生さんは、やっぱり女神だね……」


「えっ?」


あたしと握っていたはずの手は、いつの間にかあたしの頬にあって。


熱い、熱い手の平を感じた瞬間。


眠りに落ちた彼の手は、力が抜けてパタリと落ちた。


「な、なに……これ……」


スースー眠る千秋さんの寝顔を呆然と見つめながら、あたしは自分の顔を両手で覆う。


顔が熱くて、まるで千秋さんの熱がうつったみたいだった。


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