やくたたずの恋
 お洒落なのか、それとも無精なのか。どちらともつかない髭に囲まれた表情は、穏やかだ。だけど、視線は妙に鋭い。ナイフのような切れ味のあるその視線で、雛子の体は魚のごとく三枚おろしにされそうだ。
 体はがっしりしているものの、なぜか健康的な雰囲気は漂っていない。体にぴったりと合ったシャツやベストといった衣類が、彼の重なり合ったやさぐれたオーラを隠しているように見える。
「あ、あの、私、影山恭平さんにお会いしようと……」
 やっとのことでひねり出した雛子の声に、男は唇だけを上げて微笑む。
「影山恭平は、俺だけど?」
 え? これが? この人が?
 雛子は驚きを声に出せずに、恭平を見ていた。そして手に持った写真へと、丸くなった目を落とした。
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