やくたたずの恋
15.ヒヨコ、小悪魔になる。(中編)
 どれくらい時間が経ったのだろう。雛子はちらりと、マホガニーの壁に掛けられた時計を見る。
 まだ14時にもなっていない。つまり、この「沢田様」と向かい合って座り始めてから、一時間も過ぎてないということだ。
 既に一世紀ほどが過ぎているのではと思ったが、違うのか。一気に老け込んだ気持ちにもなっていたが、それは気のせいなのだ。「雛子ばあさん」になった訳ではない。目の前にいるしかめっ面の老人が、周りの風景を枯れ葉色にさせているだけなのだ。
 これが噂の「沢田様」なんだ……。
 その顔は、歴史の教科書に掲載されている、偉人の肖像に似ている。伊藤博文か、大隈重信か。それとも板垣退助だっただろうか? 誰に似ているかは断定できないが、「偉そうな老人の顔」の見本のような顔だ。
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