やくたたずの恋
「言っておくけどな、ここで働くからには、どんな客に当たっても文句言うなよ! 昨日の敦也みたいな客は特別だからな! あんな優しくって気を遣ってくれる客は、そういねぇからな!」
「はい! 分かりました!」
 雛子は健気な兵隊のように、直立して恭平に頷いた。
「お客様が怪獣キョニュウスキーだったとしても、文句はいいません! 大丈夫です!」
「……よーし、覚悟しておけよ! おい、悦子。さっき、沢田様にはアイを派遣するって話は変更だ!」
「か、影山ちゃん、もしかして……」
 悦子は駆け足で恭平の前へと進み、細い眉を恐ろしいほどに跳ね上げた。それに恭平は、ふん、と鼻で返事をする。
「沢田様は『誰でもいい』ってご用命なんだ。なら、このお嬢ちゃんだって構わないだろ?」
「え……? 沢田様って?」
 訳の分からない雛子は、恭平と悦子を交互に見ていた。
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