やくたたずの恋
「とにかく、沢田様は気むずかしいのよ。うちの女の子たちをレンタルしてくれるのはいいんだけど、沢田様は何時間も黙ったままでいるんですって。しかも何か話そうとすると、ものすごい形相で睨んでくるって言ってたわ」
 ここへと車で送ってくれる間、悦子が教えてくれたこと。それは、いかに沢田が扱いにくい客であるか、ということだった。実際に沢田を目の当たりにすれば、悦子の指摘がいかに的確だったかが分かってしまう。
「だから、うちの女の子たちも、沢田様のお相手にはなりたがらないのよ。そりゃそうよね。何もしないで、ひたすら老人の顔を見続けるなんて、拷問以外の何物でもないもの」
 確かに、これは新しい拷問の方法なのかも知れない。「無言の刑」とでも言うべきだろうか。おしゃべりな人間ならば、心身のエネルギーを一気に消耗させられそうな罰だ。
 そんなにおしゃべりなタイプではない雛子にとっても、これはキツい。「もう無理です。ごめんなさい」と、悪くもないのに許しを請いたくなっている。
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