やくたたずの恋
「私のことが嫌いなら、そう言ってください! 鬱陶しいとか、邪魔だとか! そんなことで、私は傷つきません! 私は、恭平さんに嫌われても平気なんですから!」
「……ああ、もう! 黙れ、貧乳!」
 恭平は舌打ちして、雛子の顎を持ち上げる。そして、彼女の唇に食いついた。
 欲望の牙で、噛まれる快感。これを待ち望んでいたような気がした。彼の荒い唇の動きで、何もかもが吸い尽くされればいい。片思いでささくれた心も、志帆に抱いた恐怖も、全て。
 息苦しさから喉が鳴り、その奥に恭平の匂いが溢れる。貪られて苦しいのに、もっと、と思わずにいられなかった。もっともっと、恭平に求められていたい。
 しばらくして恭平の唇が離れ、お互いの鼻が触れる。動物の愛の表現のように擦り合わせれば、恭平の頬が緩む。
 私だけに、向けてくれた笑顔。私だけの、恭平さん……。
 雛子も微笑み返し、彼の唇にもう一度触れる。お互いの唾液で濡れた唇は、滑りつつ大きく開かれ、二人の間をより近くしていった。
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