やくたたずの恋
 謝罪の意を表して下げられた敦也の頭には、冠が乗っている。嘘つきプリンスの証である、実体のない冠が。
 こうも見事な嘘を、よく吐き出せるものだ。雛子は妙な感心をしながら敦也を見る。だが、この誠実そうな男が言えば、嘘も真実になってしまう。その証拠に、散々選挙公約で嘘をついてきた雛子の父さえも、敦也には申し訳なさげにしていた。
「こちらとしては、娘の身を気にしてくださって、ありがたい限りです。……それで、お父様の近藤社長は何とおっしゃっているのです?」
「はい。ぜひ早めに、僕と雛子さんとの結婚の話を進めたい、と父も申しております。そしてすぐにでも、横田先生を全面的にバックアップさせていただきたい、と張り切っております」
「ははぁ! そうですか! それはありがたい!」
 チーン、と巨大なレジスターの音が、どこからともなく鳴り響く。日本有数の商社の社長が後ろ盾となり、資金援助を約束してくれた。そんな「打ち出の小槌」を手に入れたも同然の状態になった雛子の父が、皮算用をし始めたのだろう。
「……ねぇ、雛子。一言言ってくれればよかったじゃない! こんな素敵な方とお付き合いしてるのなら、反対なんてしないし、あなたに無理な縁談を押しつけたりもしないわ!」
 父の隣で話を聞いていた母は、雛子へと身を乗り出す。その顔には、心からの喜びが溢れている。
 ずっと「役立たず」と言われてきた娘が、結婚することで、やっと父の役に立てるのだ。しかも結婚相手は、離婚歴のあるジジイでもなければ、おっさんでもない。キラキラ輝く王子様だ。それは嬉しいに違いない。
< 424 / 464 >

この作品をシェア

pagetop