やくたたずの恋
バカにされていることに気づいた雛子の父は、露骨な怒りを露わにして、こちらへと向かってきた。
マズい。そう判断した恭平は、雛子の手を素早く握り締める。
「では、借金の代わりとして、お嬢さんをいただいて帰ります」
そう言うや否や、恭平は雛子の体を引き寄せ、その耳元で囁いた。
「雛子、走るぞ」
雛子の返事も訊かず、恭平はステージに背を向け、走り始めた。雛子を引っ張り、客たちを押し退けながら、一直線にホテルのドアへと向かう。体当たりでドアを開け、その隙間から雛子を引きずり出し、ロビーを抜け、エレベーターへと進み続けた。
二人で会場のあるホテルを出て、一気に夜の街を駆け抜ける。スーツの男と、振袖の女の猛ダッシュ。そんな異様な様子に、オフィス街を歩く人々は皆、振り返る。
雛子は草履が脱げそうになりながらも、必死で足を動かしていた。目の前にある恭平の大きな背中と、繋いだ手の熱さに励まされながら、煉瓦敷きの道を駆け抜けた。
彼女の耳に、あの海の音は、もう聞こえてはこない。こうして恭平と一緒にいられれば、悲しみの波に飲まれることなどないのだ。
その代わりに、二人で走るこの道には、美しい花々が芽吹き、咲き始めている。
恭平と離れていた3日間。雛子はずっと沈み込んでいた。恭平との思い出を胸にある器に溜め込み、零さないようにしながら。その想いが、繋いだ手から溢れ出し、殺風景なオフィス街に花を咲かせていく。
マズい。そう判断した恭平は、雛子の手を素早く握り締める。
「では、借金の代わりとして、お嬢さんをいただいて帰ります」
そう言うや否や、恭平は雛子の体を引き寄せ、その耳元で囁いた。
「雛子、走るぞ」
雛子の返事も訊かず、恭平はステージに背を向け、走り始めた。雛子を引っ張り、客たちを押し退けながら、一直線にホテルのドアへと向かう。体当たりでドアを開け、その隙間から雛子を引きずり出し、ロビーを抜け、エレベーターへと進み続けた。
二人で会場のあるホテルを出て、一気に夜の街を駆け抜ける。スーツの男と、振袖の女の猛ダッシュ。そんな異様な様子に、オフィス街を歩く人々は皆、振り返る。
雛子は草履が脱げそうになりながらも、必死で足を動かしていた。目の前にある恭平の大きな背中と、繋いだ手の熱さに励まされながら、煉瓦敷きの道を駆け抜けた。
彼女の耳に、あの海の音は、もう聞こえてはこない。こうして恭平と一緒にいられれば、悲しみの波に飲まれることなどないのだ。
その代わりに、二人で走るこの道には、美しい花々が芽吹き、咲き始めている。
恭平と離れていた3日間。雛子はずっと沈み込んでいた。恭平との思い出を胸にある器に溜め込み、零さないようにしながら。その想いが、繋いだ手から溢れ出し、殺風景なオフィス街に花を咲かせていく。