ラヴィ~四神神葬~

2節

 「うそ・・・☆」

 ナースステーションの角を曲がると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「私を待っててくれてた・・・!」

 ・・・か、どうかは別にして。

 室内にいるとばかり思っていた彼が、304号室のドアの前に立っている。
 紫乃の『1/fゆらぎ』こと、今泉卓也だ。

「あっ」
(卓也先輩がこっち向いた)
「総司。・・・と平塚さん」
(卓也先輩が喋った)
 それに、それに、(正確には苗字だけど)私の名前呼んでくれた☆
(だけどっ、だけどっ)
 ふるふるッと肩が震えた。
(何なのよぅー、あれはー!)

 抱える卓也の両腕から、あふれんばかりの薔薇の花束は―!

 大輪の紅い、その花が彼に似合っているから、これまた悔しい。
(でも卓也先輩だから、どんな花でも似合って当然よね)
 などと賞賛している場合じゃない。
(あっ、かすみ草もある)
 薔薇の引き立て役であるはずのかすみ草に、紫乃の目は奪われた。

 ―げ。
 と顔を引きつらせたのは総司だ。
 卓也の好きな花はかすみ草―と適当なことを紫乃に刷り込んだのは、何を隠そう彼である。
 あれにしようか、これにしようか、それともやっぱりそっちがいいか・・・
 ―卓也に贈る花を迷いに迷っている紫乃を見ていたら、いつ花屋を出られるか心底不安になった。
 だから彼女に意見を求められた時、チャンスとばかりに総司は、最も手近のあったもっとも安価な花―かすみ草を迷わず指差したのだった。
 そして案の定、花の好みで差をつけられなかったと思い込んでいる紫乃は、花束の大きさでも負けてしまいがっくり肩を落としている。
(すまん、平塚)
 心の中で総司は合掌した。
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