鬼燈
手にしている日本酒は、何杯目だっただろう。
少し、目が回る感覚を覚える。

それでもまだ、飲み足りなかった。

私は酔いを紛らわせようと煙草に火をつけた。
自分の吐き出した煙が遠くに見えるような気がする。

ああ駄目だ。酔いが回っているのにまだ焦燥感が消えない。
もっと飲まないと、私が飲み込まれてしまう。


「どうせ死ぬなら一度、この世の不思議を覗いてからにしたらどうだい」


今まで黙って私に管を巻かれていた老人が口を開いた。

この場にはどうしてそぐわない、物語の始まりのような言葉。
あまりにも似つかわしくなく、私はたまらず歪んだ笑いを浮かべた。
尚も老人は続ける。


「それを見て、あんたがまだ何も書けないと言うのならもう、夢なんぞ見ずに真面目に生きて、嫁さんでもさがして、慎ましやかな余生を生きるんだね」


言いながら注文していたエイヒレに伸ばした老人の手の進路に、勢いよく酒の入ったコップを置いた。


「……私の何が分かる。勝手に決めつけるな」


酒の回った口は、なんとも開きづらい。
重くなった唇を必死に動かして老人へ食い下がる。

老人はニヤニヤと薄笑いを浮かべて逆の手でエイヒレを掴む。


「何も分かりゃせんよ。ただあんたがぐずぐずと漏らす淀んだ嘆きがあまりにも哀れで、ちいとばかりネタでも恵んでやろうと思ったのよ」


ぐいとコップの中の酒を飲み干すと、老人は私に顔を近付けた。
酒の臭いが強い。
いや、それは私も同じことだが。


「面白い噂話がある。それをどうするかはあんた次第だ」
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