恋の相手はお隣さん。


響の激しいキスも、優しく撫でてくれる手も、すべてに心を鷲掴みにされる。
だからもっと、響の傍にいたい。もっと近づきたいのに。
でも気持ちが言葉になるよりも先に、響は壁掛け時計を指差して言った。

「そろそろ十時だ。もう帰れ」
「……やだ」

まだ胸に縋ろうとする私を引き離した響は、悠然とした仕草で煙草を吸っている。
あんなに激しいキスをした後なのに、なんでそんなに簡単に切り替えられるの?

「あんまり遅いと、おばさん心配するだろ」
「隣だし平気だよ?」
「……紗英」

明らかに不機嫌顔で、響は煙と一緒にため息を吐いた。チラリと投げられた視線は、さっきまでのキスが嘘みたいに、冷たい。

「出入り禁止にされたければ、好きにすればいい」
「……そう言えば、私が言うこと聞くのわかってるんでしょ。狡いよ……」
「わかってるなら、何度も言わせるな」

私は、もっと一緒にいたいだけ。それを承知の上で、こうして響は突き放す。

「響のバカっ! 不能!」
「不能で結構。いいから早く帰れ」

私の言葉なんて、まるで意に介さない。それどころか、聞き分けのない子供に手を焼いているみたいな態度だ。いつだって冷静で素っ気ない態度に、怒りを通り越して哀しくなってくる。

「もういい……帰ればいいんでしょ」

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