恋の相手はお隣さん。


「……なに拗ねてんだか」

呆れたような呟きに背を向けて、勢いをつけて立ち上がる。玄関まで来ると、追ってきた響が私を呼び止めた。

「紗英。ちょっと待て」

立ち上る煙に目を細めながら、響が咥え煙草で近づいてくる。
涼しげな切れ長の瞳に見つめられて、つい目を逸らす。うるさいくらいに鼓動が脈打ってるなんて、知られたくない。

「なに?」

私の棘のある返事を気にも留めずに、響は口元に意地の悪い笑みを浮かべた。

「そんな顔して帰るのか?」
「そんな顔、って……?」

煙草を咥えたまま、人差し指で私の眉間を突いてから、頬に指を滑らせる。

「眉間に皺……と、顔が赤い」
「だっ、誰のせいで……!」
「お前は、わかりやす過ぎだな」
「……響が、わかりにくいだけでしょ」

私は頬に添えられた指にすら、ドキドキするのに。キスしても平然としてる響の気持ちが理解できない。
顔を背けてドアを開けると、響は半身を出して「おばさんによろしくな」と言って、私が部屋に入るまで見届けてくれた。
でも私はそんな優しさより、もっと響自身が欲しいのに……。
自分の部屋に戻ると、口唇を人差し指でなぞってみる。
響の感触がまだ残っている気がして、私はしばらく瞼を閉じていた。


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