それでも、僕は恋をする。
ふと見上げると、彼女は、
「君島くん、ちょっといい?」
と言って、僕を連れ出した。
ふと拓矢の方を振り返ると、にやにやしながら僕を眺めているので、にらみつけてやった。
また、告白されるのかな。
人気の少ない木陰まで連れてこられると、その女子は、
「ごめんね。君島くん。ちょっと木戸くんを一人にしたかったんだ」
と言った。
「え。それって、もしかして」
僕がそう言ったとたん、彼女は口の前で人差し指をたてて、拓矢の方を指差した。
すると、さっきまで僕が座っていたベンチに、拓矢の隣りに、女子が一人座っていた。
僕は、身をひそめてその様子を凝視した。
心臓が嫌な音を立てている。
僕は、彼女の恋が破れることを願っていた。
なのに。
拓矢は、顔を赤くしてその彼女に照れくさそうな笑顔を見せた。
「やった」
僕と一緒にその様子を窺っていた女子は、友達の恋の成就を喜んでいる。
僕は。
何の前触れもなく、突如ナイフを胸に突き刺された心地だった。
拓矢の隣りにいた女子は、かわいらしい笑顔を拓矢に向け、こちらに向かって走ってきた。
そして、友達同士で恋の成就を喜びあった。
僕はその様子をちらりと見て、その場から去ろうとすると、拓矢の彼女に、
「君島くん。ごめんね。ありがとう」
と言われたので、
「ううん」
と、笑顔を作ったが、顔の筋肉は完全に強ばっていた。