相容れない二人の恋の行方は
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01 再降臨

 私、吉井 真由子(よしい まゆこ)23歳は、ジュエリーの企画から製造、販売までを一貫して行うアクセサリーメーカーにこの春から勤めている。誰もが知る自社ブランドは売上好調で新作が出るたびに数々の雑誌に取り上げられ、最近では携帯のストラップやスマートフォン関連の商品も取り扱うようになって会社の業績は緩やかだけど常に上がり調子。
 社内設備も福利厚生も整っていて、社員は圧倒的に女性が多く、女の子が就職したい会社としてテレビでも取り上げられたことがある人気の会社で、入社試験主席の成績で入社した私は今、新卒ではめったに配属されることがないという秘書課に在籍している。

「おはよう。吉井さん、ちょっといい?」

 出社して部屋の扉を開けてすぐに、同じ部署の上司の河本(こうもと)さんに呼び止められて足を止める。黒髪をすっきりとまとめ、仕事中は眼鏡姿。常に背筋は伸びていて仕事はそつなく正確、スピーディー。秘書の鑑のような人だ。年齢は憶測だけど、十は上だと思う。

「おはようございます、河本さん」
「今日社長が急きょ出張先からお戻りになられることになったのだけど、私は取引先との食事会に専務の付き添いで行かなくちゃいけないの。代わりにお迎えに行ってくれないかしら?」
「私がですか……?」
「他の子たちもみんな予定が詰まっていてあなたくらいしかいないのよ。これ、お帰りになられてからの社長の予定よ」

 河本さんからワードで文字打ちされたメモを受け取って目を通しては見るものの、突然のことに緊張が走る。
 入社してまだ半年の私は秘書課の中では一番下っ端で、主な業務は他の先輩方の補助や雑用。役員の付き人などしたことがなかった。

「車での待機がほとんどだから心配ないと思ってあなたにお願いするけど、くれぐれも粗相のないように」
「は、はい!」

 去り際に、緊張で背筋がピンと伸びる私の胸元まで伸びた髪に河本さんが触れた。

「長髪もパーマも禁止はしていないけど、ちょっと派手過ぎるんじゃないかしら。あなたには似合っているけどね」

 にっこりとほほ笑むその笑顔の裏を読んで背筋が凍る。
 入社してすぐに周りの先輩を見て髪は黒く染めたけど、最近になって伸びてきたストレートロングの重い印象が気になって、ふんわりとした軽めのパーマをかけた。どうやら、河本さんのお気に召さなかったようだ。この際、短く切ってしまった方が良さそうだ。
 週末の予定は決まった。美容院へ行こう。
 年上の厳しく出来る先輩方に囲まれて、まだまだ下っ端の私は肩身の狭い思いをすることは度々あるけれど、それでも秘書課に配属されたと言う誇りを胸に日々精進している。

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