相容れない二人の恋の行方は
「結構ショックだったよ。真由子がいなくなった時。追いかけようとか、見つけ出してやろうとか……そんなこと思えなかった。真由子の気持ちを考えたらしちゃだめだと思ったし。でも、たまたま父と帰国の飛行機が一緒になった時に、飛行機の中で父がある新入社員の履歴を熱心にチェックしていた。迎えに来てくれる秘書のことを少しでも知っておこうとする真面目な父らしい何気ない行動だった。その時に父が言ったんだ。「栄華卒とある。千智の知っている子かな?」と」

 ゆっくりと視線を上げると、新谷も私の方へと目を向けた。

「それが真由子だと分かったら、勝手に足が父の会社へと向かっていたよ」

 言い終えると新谷は背を向け「帰ろう」と言った。背中を見ながら立ち上がって、その時、思わず言ってしまいそうになって飲み込んだ言葉が一つある。
 「嫌っているわけじゃない」と。
 自分が分からなかった。じゃあなんで一度逃げ出したのよ。あの時は逃げたくて逃げたくて、一日でも早く新谷の傍から離れたくて……今だって、出来るのならすぐにでも同居を解消して一人の生活に戻りたい。新谷に対する気持ちは、昔も今も同じだ。
 この時、以前にも感じた時と同じ、また心が酷くモヤモヤする後ろ向きな感情が込み上げてきた。
 私が、新谷から逃げたかった本当の理由は……

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