相容れない二人の恋の行方は
「あれ!? 真由子じゃん!」

 突然自分の名前を呼ばれ、はっと我に返る。聞き覚えのある声に恐る恐る振り返る。

「この間はほんとごめん! 許して! この通り!」

 目が合うとすぐに、いきなり手を合わせ頭を下げられる。そして顔を上げると首をかしげた。

「てゆーか、千智元気?」
「えぇ……まぁ……」
「ならいいや」
「あ、あの……」
「真由子のことはマジでタイプだけど、でも、千智への当て付けのような気持ちの方が強かった。だってアイツ昔からうやらましいほどたくさんの女引き寄せて、おまけに超かわいい彼女までいて……! 要するにただのつまらない嫉妬だ。アイツのことが嫌いなわけじゃない。真由子には本当に迷惑かけた。ごめん!」

 現れたのは弘毅さんだった。
 二度の謝罪の言葉にも、自分がされたことを思い出すとすぐには許すことはできなくて話題を変えた。

「ど、どうしてこんなところに……?」
「大学がこの近くなんだよ」
「だったら、大学は……?」
「え……? はっ! そうだった!!」

 弘毅さんの突然の登場に加え、突然の大声。私の緊張は最高潮に達する。

「大学なんて行ってる場合じゃないんだよ! 偶然、見つけたんだよ!」
「な、なにを……」
「天使が店に入っていくところを!」
「……は?」

 何が何だか分からずに戸惑う私を無視して弘毅さんはじっと私の顔を見て「そうか、真由子は……」と呟くといきなり私の右手を取った。

「やっ……ちょ、ちょっと!」
「ちょっとついてきてくれ。すぐそこだから!」

 抵抗しても強く引かれると簡単に自分の足がふわっと浮き、そしてそのまま強引に手を引かれると、簡単に私の身体はスーパーとは逆方向へと引かれていく。
 突然のことに私は放心状態。起きているように見えて実は軽く気絶をしていたかもしれない。
 今一体何が起こっているの……?
 弘毅さんとはついこの間一悶着あって、普通なら、会話どころか顔を合わせるのも気まずい間柄だと思うのだけど……もしかして、さっきの謝罪で彼の中ではもうなかったことになっているのでは。大っぴらで豪快な彼の性格からしてそんな気がする。
 なんでこう……新谷の周りって新谷を筆頭に型破りな人たちばかりなのだろう……。というか、私一体どこへ連れて行かれるの!?

「は、離してぇぇ!!」

 自分の状況を理解して抵抗した時はもう遅く、弘毅さんが目指した目的地へとたどり着いた。

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