相容れない二人の恋の行方は
「木崎さんに連絡を取ってもらうのはやっぱり無理でしょうか……」
「……」
「じゃあせめて、私が弘毅さんの番号教えますんで、連絡取ってみたらどうでしょうか? 話せばきっと、またすぐに昔のように……」
「どうしてそんなこと……」
「一人くらい、友達はいた方がいいですよ!」
「余計なお世話だよ」

 むすっとした表情の新谷を見て自分の失言を悟る。でも私の言ったことは本心だった。前に弘毅さんとの思い出を語った時の新谷は寂しそうな表情を浮かべていたし、実際に、もう一度会いたいと言っていた。そんな相手に、形はどうあれ、再会できたのだから……。
 頭では思っても口に出せないでいると、新谷は立ち上がった。やっぱり、私の申し出は一つも聞き入れてもらえないみたいだ。
 でも立ち去るのかと思いきやすぐに戻ってきて再び座ると、小さなメモ帳にペンでサラサラと何かを書き記している。そして書き終えると、メモ帳を私へと差し出した。

「これは……?」

 受け取ったメモには電話番号が書かれていた。

「それ、まなみの番号。連絡取りたいなら、自分で取れよ」
「えっ、で、でも……!」
「人のこととやかく言ってるけど、真由子だって友達いないだろ?」
「い、いますよ! えっと、大学の時の……あ、あと編入前に住んでた田舎にも……!」
「へぇ?」
「た、ただみんな遠方にいるから……忙しくて連絡取れていないだけで……」
「ふーん?」
「い、いますから!」
「だったら、引きこもってばかりいないでたまには今日は友達と遊びに行ってきます、とか言ってみろよ」
「だからそれは……! したくてもできないだけで」
「まなみなら、家もそう遠くないしいつでも会えると思うよ。勤め先もこの辺なんだろ?」

 たまに反論してみても、次々と返されて最後は行き詰る。私は無駄な抵抗はやめ、「ありがとうございます」と連絡先を教えてもらったことに対しての礼を言った。
 すると再び立ち上がった新谷が去り際に行った。

「さっきは余計なお世話とか言って、ごめん」
「はい……?」

 突然の思いもよらない謝罪の言葉に驚いて顔を上げて新谷を見上げる。

「ありがとう」

 目が合ったのは一瞬で、短い一言とともにさっと逸らされると、新谷は背を向けて自室へと行ってしまった。私はただ呆然とパタンと音を立てて閉まる扉を見つめていた。

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