相容れない二人の恋の行方は

24 深層心理?



 生徒会長の金城さんは気品があって聡明な和風美人だった。
 賢く大人びた雰囲気の彼女は自分より年下には見えないし、思えなかった。そんな彼女とは、生徒会の手伝いをするようになってから接する機会が増えた。

「新谷さんって、普段どんなお話されるんですか?」
「……え?」

 口数の少ない彼女が、唯一彼女の方から話しかけてくる話題は新谷のことばかりだった。

「どんなって……普通の……。あの、話してみればいいんじゃないですか?」

 そう言って目を向ける先には新谷の姿。
 中庭で、他の生徒会メンバーと体育祭の新種目について話し合っている。そんな新谷に目を向ける金城さんの頬が、いつも決まってほんのりと赤く色づく。この時はまだ恋と言うものを知らなかった私だけど、さすがに彼女の気持ちには気が付いていた。

「いえ、私なんかはとても……。会話なんて、生徒会の業務についてのことくらいしか……」

 美人で賢く私からしてみればとても魅力的な彼女がここまで消極的になる相手。それが新谷で、そんな新谷とお似合いのカップルだと噂されていたのが。

「ねぇ、みんなー!」

 明るい笑顔で駆け寄ってくる彼女。木崎さんだ。

「いつもお疲れ様! クッキー焼いてきたの。食べて!」

 木崎さんは一人一人に小分けしてラッピングしたクッキーを配る。最後に金城さん、私のところへやってきた。

「はい、吉井さんも!」
「ありがとうございます……いつもすみません」
「いいの。……ん?」

 突然顔を覗き込まれて、くりっとした大きな瞳と透き通るような綺麗な肌が視界に映る。

「にきびが出来てるわ。すぐにケアしないと。ちょっと待ってて、バッグにクリームがあるから取って……」
「いえ、大丈夫です……」

 私は顔を隠すように俯いた。
 思春期には人並みににきびができることもあった。私自身はあまり気にしていなかったのだけど、周りは綺麗な人ばかりで、今のように指摘をされることも増え、次第に気にするようになっていった。でも、気にしだすとなかなか良くならなくてにきびは増える一方で……

「だめよ、跡が残ったら大変。遠慮しないで! ちょっと待ってて!」
「あ、ちょっと……!」

 私の制止を振り切って木崎さんは走って行ってしまった。裏表のない木崎さんの純粋な好意だということは分かっていたけど、素直に受け取れなかった。こんな時いつも、自分が外見だけじゃなく、中身までもが醜い人間のように思える。

「真由子」

 新谷が私と金城さんの元へとやってきた。

「そろそろ帰ろう」
「……もう少し待ってください」
「なんで?」

 理由を答えないでいると、代わりに金城さんが事情を説明した。

「にきび? そんなの今の時期誰でも出来るんだから放っておくのが一番だ」

 くだらないといった感じでそう言うと「ほら行こう」と言った。誰でも出来るといいながら、言った本人も綺麗な滑らかな肌をしている。にきび作っているとこなんて見たことがない。私の視線は足元へと向かう。

「金城、まなみが戻ってきたらもう帰ったって伝えてもらってもいいかな」
「は、はい!」
「ありがとう」

 私には絶対に向けない笑顔を見せ先を行く新谷のあとをついて歩く。その後もずっと、私は決まって彼の後ろを歩く。絶対に並んで歩くことはしない。
 歩くことも、一緒にいることも、死ぬほど嫌だった。
 自分が新谷と並んで歩くには不釣り合いだってことを自分が一番よく分かっていた。
 それが、嫌で、嫌で……振り回されて意地悪されるよりもずっと、嫌だったんだ。




< 109 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop