相容れない二人の恋の行方は
 新谷君についてやってきたのは校舎から離れた場所にある人気のない講堂だった。音楽祭などに使う講堂らしく、中にはピアノなどの楽器が置かれた小さな演習室が複数あった。その一室に連れられて、いざ勉強をはじめようとすると。

「その前に、一つお願いがあるんだけどいいかな」
「はい?」

 テーブルに頬杖をつきながら、何食わぬ顔をして言った新谷君のお願いとは……

「あぁ! これこれ。ボク、大好きなんだよね。コンビニの肉まん」

 肉まんの入った袋を手ににこにこと嬉しそうにはにかむ新谷君を、私は大きく息を切らし肩を揺らしながら見つめる。

「あ、あの……! 私、勉強を教えると約束はしましたが、それ以外の要望に応えると言う約束は……」
「お腹が空いてたらやる気も集中力も出ないよ。勉強を教える約束だけど、それは当然、成績を上げてくれるということだよね。だったら生徒のやる気、コンディションを整えるのも家庭教師の仕事だよ。質のいい勉強が出来ないと成績アップは見込めないよ?」
「は……はぁ?」

 悪びれる様子などまったくなくけろりとした表情でそう言い放たれ、あっけにとられて異論、反論の言葉はどこかへいってしまった。
 私は部屋に入るなりお腹が空いたと言う新谷君の要望に応えるため、広い学園内を走って門まで20分、門から最寄りのコンビニまで走って往復15分、学園に戻って講堂まで迷子になりながら足元はフラフラになって30分……。計一時間以上の時間を費やしてただ一つの肉まんだけを買いに行かされたのだ。
 とっくに冷めきった肉まんを手にすると「冷めてる」と不満を口に漏らしながらも一口口に入れた。

「あー。これ違う」
「……はい?」
「俺が食べたかったのは、新商品の、肉二倍の贅沢肉まんの方だよ」
「そ、そんなの知らな……」
「買ってきて」
「……は?」

 新谷君は取り澄ましたような顔つきでじっと私を見据えると、もう一度「買ってきて」と言い終えてからゆっくりと口角を上げた。

「で、できません……!」
「あーあ。あの時、ボクが通りがからなかったら、君、どうなんてたんだろうなぁ。不良男三人に……」
「……っ」

 返す言葉がなくて、観念して「行きます」と言って部屋を出て行こうとしたその時だった。
 テーブルの上に置かれた新谷君の携帯が振動して部屋にその音が響いた。新谷君は携帯をおもむろに手に取ると、立ち上がった。

「やっとつかまった」
「……はい?」
「時間と暇つぶしはここまで。用事を思い出しちゃったんだ。先にそっち済ませてもいい?」
「……え?」
「勉強は、その後で」

 そう言って私の横を通り過ぎて部屋を出て行こうとする。そんな彼の様子を呆然と見つめていると、振り返った彼が「なにしてるの?」と相変わらず涼しい顔をして言う。

「ついてこいよ。勉強は、用事が済んだあとだって言ってるだろう?」
「はい……」

 有無も言わさぬ態度ではっきりと言い放たれ、即座に正しく冷静な判断ができなかった私はあっさりと頷いた。

 そして、連れられてやってきたのは……

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