相容れない二人の恋の行方は
 新谷君について、一人で歩いたら確実に迷子になる広い学院内を歩く。建物、インテリア、細かな装飾品もすべてが重厚で高級感にみち溢れ、ここに通うのは一年ほどだけど、たぶん卒業をするころになってもこの雰囲気には慣れない。

「あのう……あのような嘘、すぐにバレると思うのですが……」
「その時はその時だよ。大丈夫。ボクがついてる」

 そう言ってちらっと一瞬こちらに視線を移すとまた前を向いた。
 昨日、新谷君は私の味方になってくれると言った。それは編入生(よそもの)を嫌う傾向のある生徒から守ってくれるということ。その通り新谷君のついた嘘をクラスメイトは簡単に信じ、私は無事、彼らの仲間入りを果たしたわけだ。でも、あんな嘘をずっとつきとおせる自分に自信がない。何せ、私は一般家庭の育ちなのだから。

「でもここに通えると言うことは、それなりにいい家なんだろう? 父親は何をしてる人?」
「大学教授です」
「へぇ。だったら嘘つかなくても、本当のことを言っても良かったかもね」
「いや、でも。資産とか、財産とか……ビルとか。そんなのないし、本当に、ごく普通の一般人なので……」

 会話をしながら、下校をする多くの生徒とすれ違う。男女とも、視線を送るのは新谷君。
 新谷君の話から、家柄をステータスと考えるようなところがあるこの学院の生徒が、理事長の孫である超セレブの新谷君に羨望の眼差しを向けるのは分かるけど、それだけじゃない。
 女子生徒のほとんどはがほんのりと頬を染め、うっとりとした視線を向けている。端整な容姿、クールで物静かな上品な雰囲気、時折見せる可愛らしい中にも怪しい色気を感じさせるミステリアスな笑顔。そして、私だけが知る彼の裏の顔。今までに現実世界で出会ったことのない、まるで二次元の世界に生きるような自分には縁のない男性。そんな新谷君と、半歩後ろと言えども彼について歩いている今の現実。
 彼は私には縁遠い人。ひっそりと暮らしたい私にとってはできれば近づきたくない人。でも、彼に頼らないとここではやっていけない現実。
 逃げ出したい、目を背けたくなることばかりだけど、現実を受け入れなくては。

「あの、どこに行くんですか……?」
「あぁ、人のいないところ。来週期末試験だろ? 勉強、教えてくれるって約束だよね? 静かなところで勉強したいから」

 成績に不安があると言う新谷君に勉強を教えるという条件で、彼は私の味方になってくれると言った。勉強しか取り柄のない私にとってはなんともない条件に、喜んで私は首を縦に振っていた。

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