相容れない二人の恋の行方は

05 わたしのなつやすみ

 自宅から学院までは徒歩で20分。始業時間は8時半だから8時に家を出れば十分間に合う距離なのに、ある場所へ寄り道をするようになってからは8時20分前に家を出るようになった。朝の20分はかなり大きい。

「おはようございます……」
「ふあぁぁ……おはよう」

 おごそかで立派な門扉前。呼び出してから10分以上待たされて、あくびをしながらようやく出てきた。
 編入して一か月が経過。学院までの通り道にある新谷の豪邸に寄って彼を出迎えるという意味不明な日課が出来ていた。決して自ら望んだことじゃない。それなのに、気づけば毎日行きも帰りも送り迎えをさせられるようになっていたのだ。

「あの……わざわざ一緒に登校する意味ってなんなんでしょうか……?」
「ボク、朝苦手なんだよ。起こしてくれる人がいないと遅刻ばかりしちゃうから」
「私が直接起こすわけではないじゃないですか……なのにわざわざ毎朝迎えにこなくちゃいけない意味って」
「いいだろ、細かいことは。家庭教師クビになったんだから、これくらいのことできるだろ?」
「……」

 編入前に不良にからまれていたところを助けてもらって、今も彼が味方になってくれているおかげで学院内で平和に過ごせているといっても過言ではない。そのお礼にと勉強に不安があると言っていた新谷に勉強を教えるという約束をしたのだけど、それもすぐに彼が私よりも成績がいいという事実が分かって私はお役御免。確かに、新たに別の条件を飲まなくちゃいけないくらいの借りを彼には作ってしまっているけど……
 日々の送り迎え、パシリ、その他多くの雑用……私は、学院にいる間も外に出ても新谷と顔を合わせた日は常に彼の手下のように働かされている。十分な見返りは差し出していると思う。

「もうすぐ夏休みだけど、夏休みは君、なにして過ごすの?」
「受験生なんで勉強します」

 短い会話を交わしあっという間に学院の門にさしかかる。ほんと、この位の近い距離、一人で登校して欲しい……!

「新谷君おはよう!」
「おはよー! 新谷!」

 周りからの挨拶に、新谷はころっと表情を変えて爽やかに応える。ついさっきまでとても気だるそうにしていたのに。
 学院一の有名人といっても過言ではない新谷と常に一緒に行動をしていると最初は周りの目も気になったけど、親同士が友人同士ということになっている私たちが昔からの顔なじみということで一緒にいても不思議なことじゃない。
 それに加え新谷には全生徒公認の幼馴染の恋人がいる。去年のミスコンの優勝者でまるで聖女のような美しさと儚さを兼ね備えた美少女だ。新谷とはお似合いのカップル。だから私みたいな一般人が一緒にいたところで勘違いをされたり変な疑いをかけられることもない。
 だから、今の私の悩みの種は新谷千智、ただ一人。

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