相容れない二人の恋の行方は

32 ご挨拶

「いつも……休日は何してるんですか?」

 エレベーターを待つ間、珍しくふとした疑問をぶつけてみた。
 休日だけでなく平日も仕事、食事以外の時はほとんど別で行動していて、私はほぼ部屋に閉じこもっているけど新谷は外に出ていることが多いような気がする。

「休日か。今は骨董品にはまっていてその収集に日帰りで行ける所なら遠方まで見に行ったり。父や祖父の付き合いで知人の演奏会や個展、講演を見に行ったりすることもあるよ」
「……そうですか」

 骨董品、演奏会……。馴染みのない言葉ばかり。やっぱり、生きる世界が……

「あとは身体を動かすためにジムに行ったり。真由子も引きこもってばかりいないで運動はした方がいい」
「知ってますよね? 私の運動神経が壊滅的なこと……。それを他人目にさらすのは恥ずかしいです」
「だからトレーニングするんだろ? 他人目が恥ずかしいなら……あ、実家(うち)で今度テニスやろうよ」
「出来るかな……自信ないです……」
「プールは?」
「……泳げません」
「乗馬は? 子供の頃やってたんだけど。結構いい運動に……」
「考えただけで酔いそうです……」
「……君は一体何が出来るの?」
「……散歩」
「せめて走れよ」
「すぐに息切れしちゃって……」

 新谷は私とのこの先の会話をあっさりと諦め、エレベーターに乗り込むと話題を変えた。



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