相容れない二人の恋の行方は
「あ、あの人たちは……?」
「うん。ボクだけじゃ心もとないかなと思って。手伝ってもらおうと思って昨日連絡入れたんだ」

 彼女たちの前まで行くと全員が一斉に頭を下げた。
 あの完璧なお辞儀。かつて私も新谷の家に一か月居候していたとき、当時のメイド長と呼ばれる女性にみっちり叩きこまれた作法の一つだ。

「真由子、鍵は?」
「は、はい!」

 新谷に呼ばれ部屋の鍵を開ける。ワンルームの部屋は私と新谷、さらに五名のお手伝いさんを入れたらいっぱいで身動きが取れない。

「……部屋、ここだけ?」

 新谷からの質問にただ頷いた。そしてしばらくみな沈黙。
 新谷は相変わらずのポーカーフェイスだけど、たぶん内心驚いているのだろう。彼は庶民の暮らしなんて知らないんだ。

「細かなものはだいたい自分で運んでしまったので二人いれば十分……。あ、でも大きな家具や家電をどうしようかなって思っていて」
「どうするの?」
「しまったぁ……実家に運ぶためにどこか業者にお願いしないとって思っていて……」
「分かった」

 すると新谷が命令せずとも、使用人が手際良く荷物を運べる大型車を手配してあっという間に部屋の片付けは終わった。

 使用人の方たちとは片付けの終わった部屋で別れ、私と新谷は先ほど乗ってきた運転手つき高級車で私の実家へと向かっていた。

「先に家具などの荷物は届いているはずだよ」
「あのぅ……なぜ実家にまで? 私一人で……」
「なんでついてくるのかって?」
「えっと、まぁ……はい」
「前から行こうとは思っていたよ。一緒に暮らしているわけだし。ご両親に一言挨拶しておかないとって」
「あ、挨拶って!?」
「今はもう晴れて恋人同士だから。その報告も兼ねて」
「ちょっ……す、すとっぷ! 待ってくださいよ! そんな、両親も急にまたあなたが来たらびっくりしますよ! そ、それに、報告って……!!」
「ご両親への報告を済ませないまま付き合うのには気が引ける」

 新谷は変なとこは真面目だ。でもそう言いながら、順序を踏んでいるようで踏めていない。だって……

「そ、そんなこと言ってこの昨日……!」
「昨日? あぁ、あれはキスじゃない」
「わーっ!!」

 墓穴を掘って赤面。し、しまった。思い出さないようにしていたのに!
 新谷を止めようとする間もなくあたふたしているうちに実家に到着してしまった。そして「帰りは自分たちで帰るから待たなくていい」そう運転手に言い残し車を降りる。

< 145 / 194 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop