相容れない二人の恋の行方は
 新谷は一度だけウチに来たことがある。夏休みを新谷の家で過ごすこととなった時に両親の了解を得るために来た時だ。

「……あれ?」

 私からしてみれば四年前となんら変化のない自宅を前にして、新谷は表札横につけられたプレートを見て立ち止まる。

「吉井弁護士事務所……? 真由子のお父さんって教授だって言ってなかった?」
「それは父です。母が弁護士なんです」
「へぇ……」
「あ、そっか。前に来たときはまだ再開前でしたね。元々田舎で事務所開いてたんですけどこっちに引っ越してくるのをきっかけに一度は事務所もたたんで。でもしばらくしてまた始めたんです。事務所と言っても少人数で細々とやってる小さなものですが」

 自宅門扉前で立ち往生していると家の扉が開き、中から母と見知らぬ男性が出てきた。

「あら、真由子……?」

 母は私から視線を新谷に移すと目を見開き動揺した様子で声を上げた。

「し、新谷さん!?」

 無理もない。四年前に学院長の孫である新谷を私の友人として母に合わせた時も同じようなリアクションだった。
 それなのに、再び我が家にやってきて次は恋人ですなんて言ったら、お母さん、倒れるんじゃ……
 新谷は母の前に出ると柔らかに微笑んだ。

「お久しぶりです。お元気そうで何よりです。先ほど真由子さんの荷物をこちらに送るよう手配したのですが届きましたか?」
「え、えぇ。昔使っていた真由子の部屋に運んでもらいました……。えっと、今日はどういった用件でこちらに……?」
「はい。実は、真由子さんとお付き合いをさせていただくことになったので、挨拶にきました」

 ポカンと口を開けていた母も、ゆっくりと状況を理解するとそのままぴしっと固まった。

「先生、約束の時間に遅れます」
「はっ、あ、あぁ、そうね」

 付き添いの男性の声にはっと我に返ると母は腕時計に目を向けた。

「すみません。お急ぎのところを足止めしてしまって」
「いえ、いいんです。えぇっと……1、2時間ほどで戻りますので、新谷さん。よかったらウチでゆっくりなさっていってください」
「いいんですか?」
「えぇ、もちろん!」

 笑顔を浮かべる母の顔を見て、驚いてはいるものの、新谷との交際の事実には歓迎している様子がうかがえる。

「真由子、ちゃんとお茶出ししなさいよ」
「……はい」

 いつも、してますけど。そう心の中で呟く。

「では、すみません。失礼しますね!」

 母が立ち去ると新谷はいつの間にか手にしていた紙袋を私に手渡した。

「これ、生ものだから冷蔵庫に入れておいてよ」
「これは……?」
「手土産」
「い、いつの間に!?」
「さっき引っ越し作業中に用意させた」
「……」

 母の前での誠実な態度と言い……こういうところはぬかりない。完璧だ。
 でも母が立ち去った瞬間私のよく知るいつもの新谷に戻る。私を置き去りにし、一人で勝手に門扉をくぐり扉前で「鍵」と言い扉を早く開けるよう催促。

 まさか、新谷との関係について心の整理も出来ていないまま昨日の今日で新谷を両親に紹介することになるなんて……。
 先行き不安。
 私は重い足取りで門扉を抜けるとバッグから実家の鍵を取り出した。

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