相容れない二人の恋の行方は
「まさか、こうなるとは」

 それはこっちの台詞だ! 声を大にして言いたいところをぐっとこらえる。
 今、私と新谷は私が以前使っていた自分の部屋にいる。それも、お風呂を済ませさっぱりとした寝間着姿で。
新谷は昼間ここに運び込まれたわたしのベッドに入って仰向けになると頭の上で手を組んだ。
 お酒も入り、長時間新谷と過ごし彼の誠実な態度に気を良くした両親が、時間も遅いしと強引に泊まっていくことを勧めたのだ。さすがに新谷も遠慮して断っていたけど最後は両親に押されてしまった。

「あのう……それ、私のベッドなんですけど……」
「客を床に敷いた布団で眠らせるつもりなんだ」
「……いいえ」

 どこかで聞いたことのある台詞に反論できない私は、大人しくベッド横に敷いた布団の上に腰を下ろした。
 ていうか、一晩一緒に過ごさなくちゃいけないの? 
 両親は恋人同士だからいいでしょ? と軽くそう口にしていたけど……しまった、恋人同士になったのは昨日だということを伝え忘れていた。いきなり一晩を一緒に過ごせるほど深い仲ではない。

「真由子の両親面白いね」
「酔っぱらうとあぁなっちゃうんですけど普段は普通です。……酔っ払いの相手お疲れ様です」
「別に疲れてない。……楽しかった」

 無理をして、両親に合わせていたんでしょ? その言葉を挟む間もなく新谷は続けた。

「今日は来てよかった」
「そう……ですか」
「もしかして、真由子が法学部に進学したのって母親が影響してる?」
「……はい。でも身の程を知ってすぐに諦めましたけど。……がっかりしました?」
「え?」
「いや、さっき……目標に向かってひた向きに、とか言っていたので……」
「別に。それくらいでがっかりなんかしない」
「さっきの言葉って……」
「え?」
「いえ、なんでもないです」

 さっきの言葉は全部、本当ですか?
 その言葉を半分出かけたところで止めた。平常心、平常心。自らを動揺を誘うような言葉は禁止だ。
 でも私の言葉を最後に会話が途切れる。まだ眠れないし沈黙になるのが嫌で必死に会話を繋げようとする。

「あ、あの。前から気になっていたのですが」
「ん、なに?」
「昔遊園地で私が倒れた時……恥ずかしかったって言っていたのってなんですか?」
「……あぁ」

 新谷は寝転がったまま身体を横にこちらへと向けた。

「前の日にさ、うっかりボク裸で真由子の前に出ちゃっただろ?」
「……!!」
「別に裸を見られるくらいどってことなかったんだけどな。真由子があまりにもピュアな反応を見せて固まるから……悪いことをした気分になった。だからあまり近づいたり触れたりしたらいけないのかなって思ったらしばらく真由子の顔を見るのすら照れくさかったんだけど」
「う、嘘」
「嘘じゃない。ボクって意外とピュアなのかも」
「はい……?」

 私今自ら墓穴を掘った? ここで思いもよらない刺激的な記憶が蘇ってきそうで、必死に振り払おうと頭の中で過去の記憶と戦う。

「今はどうだろうなぁ。真由子に見られたら……」
「え……?」

 視線を感じるけど目を合わせられない。な、なに……なんか今、変な雰囲気になってない?

「ま、ボクは露出趣味はないから他人に裸を見られて喜んだりなんかしないけどね」
「当たり前じゃないですか!」
「ははっ」
「あまり……からかわないでください……!」
「ごめん。今のはボクが悪いな」

 再びしんと静まり返る室内。私の心臓の音が相手にも伝わってしまいそうだ。

「こっち来る?」
「!!」

 さらに続けての私の心音を上げる台詞に、私は苦情を訴える。

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