相容れない二人の恋の行方は
「はぁぁ……」
帰宅後、真っ直ぐに自室へと向かうと、大きな溜息をつきながらベッドへダイブした。
久々に出社をした気疲れと、先輩たちの余計な気遣いに精神的に疲れてしまった。
なによ、みんなして別れたって決めつけて……。そもそも、付き合ってるかどうかも微妙だっつーの! ……あぁ、自分で言っていて悲しい。
色々な感情が入り混じって、落ちたり、怒ったり、突っ込んだり、自分のテンションがおかしなことになっている。
私たちの関係は、付き合い自体は長く深いけど、それまでの長く続いた主従関係から小さな一歩を踏み出してようやく隣を歩けるようになったのはつい最近のこと。
でも、キス……したもん。前に一度上唇を食べられたことはあったけど、船上で交わしたキスは「あれはキスじゃない」とは絶対に言えないと思う。存在を確かめ思いやるような、深いんだけど荒くない、優しいキス。
思い出すだけで顔が、全身が熱くなるキス。
あのあと抱きしめられた腕の中が寒さを忘れるくらいあったかくて、真っ赤な顔が恥ずかしくて、絶対に見られたくなかったけど、ずっとこうしていたいと思うほど濃密なひと時だった。少なくとも私はそう思った。
うつ伏せに突っ伏した身体を反転させて仰向けになる。そして無理やり口角を上げる。
こんな気持ちは今だけ。
新谷さえ戻ってくれば元の私に、日常に戻る。そう信じて私は新谷の帰りを待つことにした。
でも……
一週間待っても戻らず、連絡もない。
十日が過ぎても音沙汰なし。
さすがに、私一人で新谷のマンションに住んでいることに気が引けるようになって、引っ越した方がいいんじゃないかと思い始めたのは二週間が過ぎた頃。それでもやっぱり戻ってくるどころか連絡もない。
いつの間にか街はすっかりクリスマスムードになっていた。今まで23年間、周りがそんなムードに沸き立つ中平気な顔をして過ごして私。今年はというと。
「ねぇ、彼氏へのプレゼントなににしたの?」
「ふふふ、えっとね……」
定時を過ぎちらほらと帰宅していく人がいる中、私の背後を通り過ぎて行く先輩たちの声が偶然耳に入った。
「吉井さん、今日はもういいわよ。帰りなさい」
河本さんにそう声をかけられると、身支度を整え会社をあとにした。