相容れない二人の恋の行方は
*
朝が弱い新谷が珍しくまだ外が暗い早朝から起きて何やらバタバタと忙しく動いていた。
「真由子ごめん、急に出ることになったからもう行くよ」
「え? えと、私は」
「ボク一人で行くからついてこなくてもいい。あと、しばらく留守にするからよろしく」
「……はい?」
しばらく留守? 泊まりがけでどこかへ行くのだろうか?
忙しそうにしているのは見て分かったけど、気になったので尋ねてみる。
「いつ頃戻るんですか……?」
「うーん、分からない」
「え?」
納得できる返事をもらえないまま、室内に鳴り響く着信音。新谷は電話に出ると「分かった、すぐに行く」とだけ言うと電話を切り、玄関へと向かう。私もそんな彼の後を追う。
「帰ってから話すよ。ほんとに時間がないんだ。この飛行機を逃すと、目的地に行けるのが最悪十日くらい先延ばしになるらしい」
「??」
戻る予定日も分からないけど、目的地も謎。どこか、秘境にでも行くのだろうか……。誰に会いにいくのかも分からない。分からないことだらけだけど、これ以上聞くことは叶わないと判断して大人しく口を閉じる。
そして扉を開き、振り向きざまに言った。
「あと今日から真由子、職場復帰していいから」
「……はい?」
「秘書課へ」
「はい!?」
そして再び鳴り響く着信音。その音に急かされるように新谷は最後に「じゃあ」とだけ言って出て行ってしまったのだ。
つま先を見つめたままもう一度深いため息をつく。
あまりに突然のことすぎて、まだイマイチ自分の身に起こっている現実を受け止められていない。夢でも見ている気分。久々に出社したけど、はじめてきた場所にいるような、自分の場所じゃないような疎外感を感じていた。
エレベーターの扉が開く音がして、ヒールの音が静かなフロア内に響いた。顔を上げようとすると同時に「吉井さん!?」という、聞き覚えのある声に一気に目が覚めたかのように脳内が覚醒する。
私に続いて出社してきたのは、秘書課での上司、河本さんだった。
「何してるの、あなた。こんなところで……」
「何って……今日からここに戻ることになって。えっと、聞いてません?」
「えぇ……」
「私も今朝聞かされたばかりなので……」
河本さんは驚きの表情をすぐにほどくと、「そうなの」とだけ言って私の言葉を受け入れる。
「朝からごめんなさい。大きな声出しちゃって」
「いえ」
「久々だけど、仕事覚えてる?」
「えっと……」
「って、まだまだ教育途中だったわね、あなた。今日からまたよろしく」
「はい」
自分が座ったままでいることにはっとして慌てて立ち上がる。
と、とにかく今日からまた秘書課(ここ)で働くことになったのだから、気合入れていかないと。
足を進める河本さんについて歩いたけど、すぐに河本さんは立ち止まった。そしてちらっと振り返ると「何かあったの?」と聞いてきた。
「何かって……」
「その、息子さんと」
「……えっと」
何か……と言われて思い当たることはない。ケンカをしたわけでもないし、ただ、急にしばらく留守にすると言われて職場復帰を告げられただけで……
「って、ごめんなさいね。詮索するようなことじゃないわね」
「……はい?」
詮索?
そっか……たしか、河本さんも私と新谷が恋人同士だと勘違いをしていて、今は、それは勘違いではなくその通りになった……のだと思うのだけど。
でも、別れたと思われても仕方のないような急な出来事。真実は謎だけど、はたから見たらそうともとれる突然の出来事なんだと思ったら、ちくちくとした胸の痛みを感じた。
復帰初日は、とても仕事に身が入らなくて、何度も河本さんの注意を受けた。でも、心なしか以前に比べて怒り方が優しいように感じる。……失恋をして可哀そうだと思われていると思うと、余計に切なくなった。
他の先輩方にも、前触れなく「元気だしなね」と勇気づけられると余計に気持ちが落ち込んだ。
なによ、みんなして、勝手に……!
*
朝が弱い新谷が珍しくまだ外が暗い早朝から起きて何やらバタバタと忙しく動いていた。
「真由子ごめん、急に出ることになったからもう行くよ」
「え? えと、私は」
「ボク一人で行くからついてこなくてもいい。あと、しばらく留守にするからよろしく」
「……はい?」
しばらく留守? 泊まりがけでどこかへ行くのだろうか?
忙しそうにしているのは見て分かったけど、気になったので尋ねてみる。
「いつ頃戻るんですか……?」
「うーん、分からない」
「え?」
納得できる返事をもらえないまま、室内に鳴り響く着信音。新谷は電話に出ると「分かった、すぐに行く」とだけ言うと電話を切り、玄関へと向かう。私もそんな彼の後を追う。
「帰ってから話すよ。ほんとに時間がないんだ。この飛行機を逃すと、目的地に行けるのが最悪十日くらい先延ばしになるらしい」
「??」
戻る予定日も分からないけど、目的地も謎。どこか、秘境にでも行くのだろうか……。誰に会いにいくのかも分からない。分からないことだらけだけど、これ以上聞くことは叶わないと判断して大人しく口を閉じる。
そして扉を開き、振り向きざまに言った。
「あと今日から真由子、職場復帰していいから」
「……はい?」
「秘書課へ」
「はい!?」
そして再び鳴り響く着信音。その音に急かされるように新谷は最後に「じゃあ」とだけ言って出て行ってしまったのだ。
つま先を見つめたままもう一度深いため息をつく。
あまりに突然のことすぎて、まだイマイチ自分の身に起こっている現実を受け止められていない。夢でも見ている気分。久々に出社したけど、はじめてきた場所にいるような、自分の場所じゃないような疎外感を感じていた。
エレベーターの扉が開く音がして、ヒールの音が静かなフロア内に響いた。顔を上げようとすると同時に「吉井さん!?」という、聞き覚えのある声に一気に目が覚めたかのように脳内が覚醒する。
私に続いて出社してきたのは、秘書課での上司、河本さんだった。
「何してるの、あなた。こんなところで……」
「何って……今日からここに戻ることになって。えっと、聞いてません?」
「えぇ……」
「私も今朝聞かされたばかりなので……」
河本さんは驚きの表情をすぐにほどくと、「そうなの」とだけ言って私の言葉を受け入れる。
「朝からごめんなさい。大きな声出しちゃって」
「いえ」
「久々だけど、仕事覚えてる?」
「えっと……」
「って、まだまだ教育途中だったわね、あなた。今日からまたよろしく」
「はい」
自分が座ったままでいることにはっとして慌てて立ち上がる。
と、とにかく今日からまた秘書課(ここ)で働くことになったのだから、気合入れていかないと。
足を進める河本さんについて歩いたけど、すぐに河本さんは立ち止まった。そしてちらっと振り返ると「何かあったの?」と聞いてきた。
「何かって……」
「その、息子さんと」
「……えっと」
何か……と言われて思い当たることはない。ケンカをしたわけでもないし、ただ、急にしばらく留守にすると言われて職場復帰を告げられただけで……
「って、ごめんなさいね。詮索するようなことじゃないわね」
「……はい?」
詮索?
そっか……たしか、河本さんも私と新谷が恋人同士だと勘違いをしていて、今は、それは勘違いではなくその通りになった……のだと思うのだけど。
でも、別れたと思われても仕方のないような急な出来事。真実は謎だけど、はたから見たらそうともとれる突然の出来事なんだと思ったら、ちくちくとした胸の痛みを感じた。
復帰初日は、とても仕事に身が入らなくて、何度も河本さんの注意を受けた。でも、心なしか以前に比べて怒り方が優しいように感じる。……失恋をして可哀そうだと思われていると思うと、余計に切なくなった。
他の先輩方にも、前触れなく「元気だしなね」と勇気づけられると余計に気持ちが落ち込んだ。
なによ、みんなして、勝手に……!
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