相容れない二人の恋の行方は

38 じっと見つめられて

 ベッドに下ろされると緊張も最高潮に達して部屋を見渡す余裕などなかった。真っ暗だった部屋に一つだけ明かりが点る。ベッド脇に置かれたぼんやりとしたオレンジ色の間接照明だ。眠る時に点けているだろうその明かりは決して明るくはないけど、近距離なら十分に相手の存在を目で見て確かめられる明るさだ。

「脱いで」

 突然のその言葉に声も出せずに固まっていると、ハンガーを手にした新谷が相変わらずの涼しげな表情でじっと私を見下ろしながら言った。

「コート」
「あ……はい」

 コートのことか……。
 ほっとしたのも一瞬で、再び緊張感に包まれると指先が震えてコートの大きなボタンですらうまくはずせない。そんな私を見かねた新谷が私のコートのボタンに手を掛けるとあっという間にすべてをはずしコートを私の身体から抜き取った。

 静かな室内で私の耳に響いてくるのは、足音、ハンガーをラックにかける音、エアコンのスイッチが入る音、もう一つ何かのスイッチが入ったような音は加湿器か何かだろうか。
 そしてまた、近づいてくる足音。すぐそばでその音が止まると今度は自分の心臓の音が私の中のすべての音源を支配。

「緊張してる?」

 隣に座ると肩を抱き寄せられ、相手の肩に頭を預ける形になった。私の緊張は余計に高まる。
 そのまま新谷は膝の上に置いた私の手の片方を取ると自分の胸に当てた。意味が分からず目を泳がせていると「どっちが速い?」の言葉に変わらず目を泳がせるだけ。でも少しすると胸に当てた手に自分のものとは違う鼓動が響いてきて、自分のものとは比べるのは難しいけど、速いってことは分かった。

「私の方が……速い、です」
「そ?」

 目が合うとドキンと一度大きく胸が高鳴って逸らしてしまうより前に口付けられる。
優しくゆっくりと溶かされていくようなキス。角度を変えながら何度も唇を甘噛みされると頭がぼうっと全身が熱くなる。
 ぎゅっと強く握りしめ膝の上に置いたままになった手からはいつの間にか込められていた力は抜け、固くなった全身も徐々に和らいでくる。
 軽く押されると私の身体は簡単にベッドに沈んだ。

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