相容れない二人の恋の行方は

40 私しかいない!

 紙袋の中に入った小包の中から出てきたそれはキラキラと輝いてた。
 しばらくじっと無言でそれを眺めていた。

「……なんですか、これ」

 指にとってまじまじと見つめる。リング状の土台を華やかで上質な小さな輝きが彩り中央には燦然と輝く……これは全部……ダイヤモンド?

「目的地まで乗り換えが多くて途中に立ち寄った国で宝石商を紹介されて……胡散臭かったんだけど品物はそれなりにいいものが揃っていたから現地で買ってきた。生産が盛んな地域みたいで日本で買うよりお値打ちみたいだよ」
「……あの、よく分からないんですけど……。これを、私に……?」
「つけてみてよ」
「え?」

 訳も分からずつけるように促され、ぼうっとしたまま素直に従う。右手で持った指輪を左手の中央にはめてみたけどサイズが合わなくて、その隣の薬指にはめるとぴったりフィットした。

「……すご。ぴったりだ」

 自分よりも、購入してきた新谷が驚いている。
 サイズも確認しないで買って来るなんて……。サイズが合わなかったらどうするつもりなんだろう……新谷にとってはこの程度の出費は痛くもかゆくもない、合わなければただ買い直せばいいだけの買い物なのかな……って。
 ……えっ!?

「えぇっ!!!」

 私はようやく正常な思考を取り戻した。

「なっ……ななな、なんなんですか、これは!!!」

 ブンブンと左手を振ってみたけどはずれるわけがなかった。指で力いっぱい引っ張ってはずそうとしても指がむくんではずれない。

「なにって。婚約指輪?」
「……は?」
「エンゲージリング」
「一緒!!」

 取り乱しているのは私だけで新谷の方はいたって冷静だ。でもそんなことにかまっていられないくらい私は動揺していた。
 この人は正気なの!? いきなり……こ、婚約、とか……!
 新谷はその場に膝をつくとベッドに腰掛ける私の手を取った。

「真由子の家に行った時、改めていいなって思った。畳で、丸テーブルをみんなで囲んで笑顔で溢れて。こんな家族の一員になりたいなって夢に想いえがくほどに」

 伏せた瞳は私の指に輝くダイヤを見つめて、語る口元はとても穏やかに微笑んでいる。

「ボクが急に弁護士を目指すって言いだした一番の理由は真由子のお母さんだよ。色々話を聞いたりしているうちに憧れを持つようになって、大変さや苦労を聞くと一緒に乗り越えていきたいという思いが……」
「ちょ、ちょっと待ってください。話を聞いている……? 母、本人から?」
「今ではメル友だよ。ボクの挑戦を応援してくれるとも言ってくれている。真由子のお母さんにはまずはロースクールへの進学を勧められたんだけどボクは予備試験ルートを選ぼうと思ってる。それでもやっぱり時間はかかる」
「はっ!?」

 い、いつの間に!? 娘の私が何も知らないうちに母に取り入って勝手に仲良くなっている。しかもアドバイスまで!? あぁ、頭が痛い……。

「だからボク、将来は吉井家の一員になろうと思って」
「ちょっと待ってください!!」

 あまりに唐突で現実離れした発言。見逃すことなどできなかった。
 身を大きく乗り出すと身体を覆っている布団がはらりと落ち、慌てて引き上げる。そして深呼吸を繰り返してから新谷と目を合わせた。

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