相容れない二人の恋の行方は
 様々な感情が自分の中に一気に押し寄せてきて、わけがわからなくなった。わけが分からず頬を伝って落ちてきた涙がポツポツと新谷の手に落ちる。

「心臓が……止まったらどうするんですか。私、あなたといたら長生きできない……」
「あなたじゃなくて千智なんだけど」
「……あの、今そんな話をしているんじゃ……」
「ずっと気になってた。どうにかしてくれるかな」
「……はい」

 こんな時までひたすら自我を貫く。イライラしないのはただ呆れているのか、尊敬の域に達してきているのかは分からないけど。私は泣きながら吹き出して笑ってしまった。

「じゃあ……。千智……さん」
「さん?」
「だめですか?」
「ううん。いいね。敬語もやめて欲しいっていったことあったけど今は結構いいかなって。ちょっとツボ、興奮する」
「……」
「引いてる?」
「えぇ。さっきからずっと引いてます」

 新谷は口を結んだまま小さな笑みを浮かべると、ベッドに腰掛け私の頬を伝う涙を手で少し乱暴に拭った。そしてゆっくりと引き寄せるとすっぽりとその腕の中へと収まる。あったかくて優しいけど、がっちりと閉じ込めて離さない。
 逃げることは不可能、無駄な抵抗はしないつもりだ。
 相手の胸に手を添えてそっと頬をくっつけた。

「私たち、大丈夫ですか……? なんか、色々合わないしあまり共通点が見当たらな……」
「それもうやめない?」
「……え?」
「正反対だから合わないんじゃなくて、相反してるから惹かれあう。こっちの方がいい」

 耳元で囁かれ、腕の中で笑みを浮かべながら何度も頷いた。
 私がいま居るのは、最強の優越意識の持ち主の腕の中。ここが最高に居心地がいいと感じてしまう私はどうかしてる。でも、頭でばかり考えて、否定的な思考ばかりをめぐらせてしまうのは私の悪い癖。もう止めよう。だって、

「で? さっきの返事は? まだ聞いてない」

 頭では否定しても身体が、心がそんな新谷(カレ)を求める。とにかく今めちゃくちゃ幸せだもの!

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