相容れない二人の恋の行方は
「あれ? なんか鳴ってる? 千智の携帯じゃね?」

 弘毅の言葉で自分の携帯が鳴っていることに気付くとポケットに入れていた手に取った。ディスプレイに表示された名前を見て、今出なきゃいけない相手じゃないなと思いながら着信が切れるのを待っていると弘毅が隣から覗き込んできた。

「誰? 女の名前? 新しい女?」
「さぁ」
「……おまえ。自分ばっかりいい思いしやがって。贅沢だ、本当に贅沢だ。あんなに可愛い子がいながら次々と……罰当たりな奴め。こんな見てくれだけの男のどこがいいんだ。おまえなんかいつか女に恨み殺されればいい!」
「???」

 弘毅の言っていることの意味がさっぱり分からない。まるで僕が同時に複数の女性と遊んでいるような言い方だ。そんな気持ちの悪いことはしたことがないし出来ない。
 次々と、だって? 僕は長続きはしないが頻繁に女性との付き合いを繰り返すようなことはしないし、第一そんなことばかりに時間を割きたくない。
 口に出してまで反論するのも馬鹿馬鹿しいため心の中に留めておく。

「ま、いいや。遊びに行こーぜ。乗れよ」

 弘毅にそう促され弘毅の乗るバイクの後部座席に乗った。

 初めの頃は、いつもの仲間と夜な夜なバイクを走らせたり若者の集まる娯楽施設に入り浸って遊ぶだけのやんちゃな不良の集まりだった。
 それが次第にあちこちの不良グループに目をつけられるようになり、僕を中心に力でねじ伏せたり言葉巧みに取り込んでいっているうちに次第に血気盛んな大きな集団になっていった。
 高二の終わり頃になるとケンカが増えて、大きな怪我をする仲間も増えた。

「無事は無事みたいだけど、三週間は外に出られないってよ」

 二年の終業式を終え春休み中の出来事だった。
 怪我をした仲間の状況を弘毅から聞きながら、平静を装いながらも内心心穏やかではなかった。

「誰にやられたの?」
「西高の坊主頭のいかつい男いただろ? ほら、前に一度……」
「覚えてない」
「おいっ!」

 敵も味方も登場人物が増えすぎて統制に収拾がつかなくなりつつあった。下手をすれば警察沙汰にもなるだろう。

「……チッ」

 苛立ちが込み上げてきて、無意識に出た舌打ちに弘毅が後ずさる。

「しばらくの間、少し大人しくしよう」
「ち、千智がそう言うならそうしよう……」

 理事長の孫でも優等生でもなくていいここはとても居心地が良かった。でも、そろそろ潮時のようだ。

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