相容れない二人の恋の行方は

番外編1:新谷視点(5)高3・秋

 秋の澄み渡った晴天の下、体育祭が行われた。数々の個人競技、ペア競技、団体競技の中から必ず一人一種目以上は参加するようになっている。
 運動が出来る生徒は個人競技やいくつかの競技を掛け持ちし、出来ない生徒は大抵団体競技へとまわる。
 その出来ない生徒に分類される真由子はと言うと、玉入れという運動神経など関係なく誰にでも出来る体育祭の代表的な団体競技に参加していた。
 それなのに。

「……大丈夫?」

 競技を終え、全身砂まみれで酷く疲れ切った様子で戻ってきた真由子の姿を見て思わず一言。

「……はい。なんともありません……」

 玉入れといっても普通の玉入れではなく、各チーム一人相手側にストッパーパネルを持った代表が入り、それぞれ玉が入らないようにするという特別ルールが設けられた玉入れだった。そのパネルを持つ代表になぜか真由子が選ばれたのだ。こんなにも頼りにならない代表は他にいないだろう。案の定すぐにパネルを持つ真由子は敵チームに飲み込まれ見えなくなった。
 体操着の上に上下長袖長ズボンのジャージを着た真由子は全身砂にまみれてはいるが、衣服で肌が見えないため怪我の有無は分からない。しかし敵チームに飲み込まれて派手に倒れ、その上多くの人間の下敷きになっていた。無傷のはずがない。

「嘘だろ」

 向かい合う真由子と一歩距離を縮めてじっと見下ろすと、分かりやすくさっと目を逸らすと大きく俯く。いつものことだ。
 いつもならさして気にしないが、こっちは心配して言ってやっているのにと思うと今の真由子の態度は気に入らなくてもう一歩前に出て距離をつめた。すると僕の行動に驚いた真由子が顔を上げた。

「あ、あの……っ!?」
「……ん? 顔赤くない?」
「え……?」

 ポカンと口を開けて僕を見上げる表情とミスマッチした赤い頬。

「そういえば真由子、今朝咳してたよな」
「え……?」
「もしかして風邪? それなのになに真面目に体育祭なんかに参加してるんだよ。頭悪すぎるだろ。サボれよ、こんなくだらない……」
「な、なに言って……! しーっ、しーっ!」

 僕の言葉を遮り唇の前に人差し指を立てて慌てる真由子を見てふと気づく。飾らなくて気楽な真由子の前ではつい本音が出てしまう。
 僕はもう一度、やっぱり真由子の顔がいつもに比べて赤いことを確認すると背を向けた。

「ついてきて」
「……え? どこへ……」
「いいから早く」
「は、はい!」

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